「前に一緒にやっていたときは、2人がバーベルを持ち上げてるのを1回も見たことがないんですよ(笑)。正直、『あのバー持てるんだ』って思いました(笑)。ここ数年で一番体が仕上がってると思いますし、特に齋藤選手はもともとシュートは上手い人ですが、シュートを打つ前の動きや普段のチームの活動で見ていても、なるべくして今の状態になっていると感じます。それくらい気合が入って、新たな一歩を踏み出そうとしているんだと思います。若手と一緒にギャーギャー(笑)言ってるのを見てると、幸せなところを見させてもらっているなと思いますね」
アスリートは誰もがまず自分のためにプレーする。プロレベルのステージになると、そこに生活のため、ファンのためといった様々な要素が付加されていくのだが、年月を重ねるにつれてその要素が徐々に大きな割合を占めるようになっていくもの。トヨタ自動車(現・アルバルク東京)時代から齋藤と17年もの時間をともに過ごし、一緒に移籍してきた宮田は「僕らが若い頃に先輩方がのびのびとやらせてくれたおかげで、ここまでキャリアを続けてこられた。本来ならキャリアが終わってもおかしくない僕らを受け入れてくれたこのチームで、今B3にいるのがもったいない選手たちの力をどうやって引き上げるか。齋藤とは毎年そういう話をしていて、このチームでもそれができることが僕と齋藤にとっては幸せなことです」と、自身よりもチームメートのためにプレーしたいという境地に達している。宮田の言葉に名前が出てくることでもわかるが、その想いは齋藤も持っている。
「僕自身は、昨シーズンあまりプレーできなかった分を取り返したいというのはあまりなくて、自分が活躍したいというよりは自分の経験でどれだけチームのみんなをサポートしてあげられるか、このチームと地域の人たちのためにどんなことができるかなと考えましたね。もともと僕は、大学を出た後に海外に行って、帰ってきたら実家を継ごうと思っていたので、この歳までできるとも思っていなかったですし、もう十分バスケットを楽しめている。今はチームのためにというのが一番大きいですし、応援してくれる人が喜んでくれるのが一番嬉しいので、そのために日々努力して、コートで全力を出しきれるように頑張りたいです」
ホーム開幕戦は敗れてしまったが、終了後に選手・スタッフがコート中央に整列し、コートを一周し、ロッカールームに引き揚げていくまで、齋藤は終始笑顔で観客席に大きく手を振り続けた。始まったばかりの新しいシーズンに対するワクワクした気持ちと、自身を必要としてくれる人がいることや多くの人が応援してくれることへの感謝の念、そのお返しとして少しでも貢献したいという想い、それらの全てが今の齋藤の支えとなり、充実感を生んでいる。笑顔で手を振る姿は、その表れだ。
「これだけの人に応援していただけるのであれば、それはもう命を削って(笑)頑張っていこうと思ってます。ぜひまたたくさんの方々の前で、頑張っている姿を披露できればと思います」
文・写真 吉川哲彦