渋谷駅から代々木第一体育館へ行くまでの道すがら、横なぐりの激しい雨に心が折れそうになる。傘が役立たないほどびしょ濡れになりながらも、「雨降って地固まる」と念仏のように心の中で唱え、強いメンタリティーでなんとか会場にたどり着いた。
アルバルク東京の新たなホームアリーナとなる代々木第一体育館は徐々に沸点を高めていく。すでにチケットは完売しており、雨ニモマケズ会場にたどり着いた勇者たちのおかげで8,919人を集客。クラブ主管のホームゲームとして、リーグ最多入場者数の新記録を樹立した。キャプテンの田中大貴は、「メチャクチャ楽しかった」と多くのファンに感謝の言葉を贈る。
「これだけたくさんのお客さんの前でプレーできるのは、ひとりの選手としてこんなにありがたいことはないです。レギュラーシーズンのただの1試合かもしれないですが、個人的にはすごく気持ちが高まるものがありました」
対する千葉ジェッツのジョン・パトリックヘッドコーチは、「この特別な雰囲気によって選手たちは集中力が切れたのかもしれない。今日はオフェンスもディフェンスもうまくいかなかった」ことをひとつの敗因として挙げ、78-66でA東京が新ホームアリーナ開幕戦を勝利で飾った。
外の荒天と同じように、コート内も荒れたこの試合の立ち上がり。千葉のクリストファー・スミスがアンスポーツマンライクファウルをし、続けざまに千葉のヴィック・ローとA東京のジャスティン・コブスがダブルテクニカルファウルを取られる落ち着かない前半だった。しかし、パトリックヘッドコーチのコメントどおり、集中力を欠いていたのは千葉の方である。
A東京のデイニアス・アドマイティスヘッドコーチは、「出だしのエネルギーが大事だと選手たちに伝えてこの試合に臨んだ。前節での課題だったメンタルによるミスがクリアでき、選手たちがしっかりと主導権を握ってくれた」と準備してきたことが功を奏し、第1クォーターから26-12と引き離すスタートダッシュに成功。その差がすべてではあったが、後半に入ると両チームとも落ち着きを取り戻し、チャンピオン経験ある両チーム同士の見応えある試合となり、約9千人のファンのボルテージを高めてくれた。
どちらも新指揮官を迎え、新たなスタートを切った今シーズン。「みんな早くヘッドコーチのスタイルを理解しようと思っています。でも、いろんなことを変えて臨んでいるシーズンなので最初からうまくいくのは難しい」と田中が言えば、千葉のキャプテン富樫勇樹も「新しいヘッドコーチになって練習してきたが、まだまだ理解しなければならないことがたくさんある中での試合なので、まだこのくらいのチームなのかな」というのが現状である。しかし、お互いに新チームに対する期待は大きい。「向上の余地があり、今日のような試合を続けていって、チームとしてさらに向上していきたいです」という田中。富樫も「新しいヘッドコーチになったことで考えはもちろん変わってくる中で毎日新しい学びがあり、選手として成長できる環境でもあります。その中で自分の良さをしっかり出しながら、チームの勝利を最優先に考えて今シーズンもしっかりと戦っていきたいです」と言うように、どちらが早くチームを成熟させるかもまた勝負である。
雨降って地固まる。初黒星を喫した千葉にとっては、浮き彫りになった課題を修正して臨む次戦。すでに前節の信州ブレイブウォリアーズに敗れたA東京は、ホームでレベルアップした姿をファンに見せることができた。勝っても負けても成長し続け、最後に笑えば良いのがリーグ戦の戦い方である。昨シーズンはいずれもチャンピオンになれず、ファイナルにも届かなかった悔しさを原動力に、新たなスタイルでふたたび頂点を目指す挑戦がはじまった。
文・写真 泉誠一