なるほど。これが中山拓哉が言っていた「古川さんのていねいな伝え方」ということなのか。その甲斐もあってか秋田の勝率は2019-20シーズンは4割6分3厘、2020-21シーズンは4割7分5厘と着実にアップし、待望の5割超えを果たした昨シーズンは熾烈なワイルドカード争いを制してCS出場のチケットを手に入れた。秋田にとっては記念すべき大きな一歩だ。しかし、琉球と対戦したクォーターファイナルは2戦ともに地力の差を見せつけられて完敗。「まだまだ優勝を争えるチームでないことが明確になった試合でした」と語る古川の顔にも厳しい表情が浮かぶ。だが、完敗の悔しさも。突きつけられた自分たちの現在地もCSの舞台に上がらなければ実感できなかったことだ。
「改めて振り返れば。僕が秋田に来た3年前はチームとしてバラバラだなあと感じることが多かった。でも、2年目にはみんなが少しずつ自分がやるべきことを考えたり、感じたりできるようになったと思います。もちろん、その間メンバーの変動もありましたが、『言われたことをやっていればいいわけじゃないぞ』という顕蔵さんのバスケットを理解することで目指す方向が1つになってきたのが3年目。去年のCSの敗戦が示す通りまだまだ足りないものはたくさんありますが、この3年間に前進してきた手応えはあります。CSで味わったあの悔しさは絶対忘れちゃいけないし、忘れないことでまた1つ階段を上れるはずです。それを示すためにも僕は今季もこのチームで戦いたいと思いました」
今シーズン目指すのは当然昨季以上の成績。そのためにはもっと強くならなければならない。が、古川は「強けりゃいいと僕は思っていません」と言う。「戦う以上勝つことはもちろん大事ですよ。だけど、勝ち負けの中にはただ勝っただけという試合もあれば負けたけど決して悪くなかった試合もあります。繰り返しになりますが、戦う以上勝つことは大事。けど、同じ勝ちなら僕はいいチームで勝ちたいんです」
古川が言う “いいチーム” とは全員が自分たちの武器となるものを理解し、場面、場面で必要となる自分の役割をこなし、足りないところは互いに補い、40分同じ方向を向いて戦い抜くことができるチームだ。
「そういうチームは必然的に強くなれると思うんです。だから僕はいいチームを目指したい。秋田はもっともっといいチームになれると思っています」
いよいよ開幕した2022-23シーズン。まずはアウェーで迎えたレバンガ北海道戦に2連勝と幸先の良いスタートを切った。だが、これから続く戦いの道のりには今年もいくつもの山や谷があるだろう。「でも、その中で自分たちが目指すチームにどれだけ近づけるかが楽しみでもあります」と古川は笑う。秋田での4年目を選択し、みんなでより良いチームになろうと誓った日から心の準備はできている。先陣を切ってコート走るキャプテンの姿を思い浮かべれば、今季の秋田への期待がまた1つ膨らんでいく。
秋田ノーザンハピネッツ #51 古川孝敏
4年目の覚悟「僕らは去年より必ずいいチームになる」
前編 始まりは“ダメ元”で送った1本のテープ
中編 『支えられていた自分』から『切り拓く自分』へ
後編 CSでの完敗の悔しさを忘れず、昨季の自分たちを超えていく
文 松原貴実
写真 B.LEAGUE