そしてこの試合でも鵤は、序盤から横浜BCの河村勇輝に対してインサイドでの攻撃を仕掛ける。
体の強さを生かしてジリジリとインサイドに侵入し、ゴール付近の決定力の高さと状況に対応するパススキルを持つ鵤はBリーグのポイントガード勢にとって大きな脅威だが、この日はその適性を満足に発揮することができなかった。
サイズの不利を指摘され、攻撃対象となった河村が、それを覆したのだ。
本来であれば、172cmのディフェンスを185cmのオフェンスが高さで攻めるのは大いに有効な手段だ。
そのマッチアップでイニシアチブを取れれば、ディフェンス側はダブルチームに行くなどの対策を迫られ、その結果ほかの選手がノーマークになる。
宇都宮の初得点はまさにこの形、鵤の河村へのポストアップからもたらされたものだった。
しかしそれ以降、河村は鵤に激しく身体をぶつけ、簡単な侵入を許さなかった。
今夏の代表活動でも存分に発揮されたそのディフェンス力は明らかに突出していて、彼の身長から想像されるとおりのスピードと、想像するのは難しいパワーが宇都宮の脅威となった。
実のところ、最初の得点を引き出した鵤のプレーにしても、有効な攻めになっていたとは言い難い。
鵤のインサイドプレーを警戒して横浜BCがあらかじめ用意していたダブルチームのような動きだったが、河村が致命的に攻めこまれていたようには見えなかった。
その後、前半だけで数回に及ぶ鵤のポストアップに対し、コンタクトの強さとフットワークの速さの両方を備えた河村の守りはミスマッチを無効化、宇都宮のショットクロックを消費させ、オフェンスを停滞させた。
果てには、強引に押し入ってきた鵤がゴールに正対した瞬間、素早く回り込んだ河村がスティールしてそのままファストブレイクに持ち込み、得点をアシストした。
これ以上このミスマッチを攻めればむしろ自分たちの不利益を招く、そう判断したのかどうかはわからないが、このプレーを最後に、この試合で河村がポストアップされることはなかった。
ドリブルこそチビの生きる道、という有名な格言があるように、サイズの小さい選手はスピードで勝負、高さの不利には目を瞑るのが一般的だ。
対戦相手はスピードの不利を高さの有利で上回れれば、主導権を握れる。
バスケットボールは基本的に高さがモノをいう。
だが安易な身長差のミスマッチは、河村に通用しないのかもしれない。
そこには穴が開いているように見えるが、実際には落とし穴。
ミスマッチを攻めているつもりが、いつのまにか攻めさせられているようなことにもなりかねない。
※写真は2021-22シーズンのもの
文 石崎巧
写真 B.LEAGUE