2022-23シーズンのBリーグにおいて、これは最大級の目玉 “移籍” と言っていいのではないか。6月20日に宇都宮ブレックスヘッドコーチ退任が発表されて以降、その動向は多くのファンが気にかけていたが、42日後の8月1日、その人物は越谷アルファーズが開いた記者会見に姿を現した。サプライズを起こすのが越谷の得意技とはいえ、B1でリーグ制覇を成し遂げたばかりのHCが直後にB2にステージを移すことは、そう簡単に想像できることではない。
レギュラーシーズンも残り約1か月となった頃にはHC退任を決めていたという安齋竜三は、実は退任後も宇都宮に籍を置き続ける可能性もあった。越谷からオファーを受けたのはHC退任を決意した後のことであり、その時点では次のシーズンについては白紙だった。
「最初はブレックスに残る方法もちょっと探ってはいたんです。でも、いろんな兼ね合いがあってポジションがなくて、そこで他のチームの話を聞こうということになりました。シーズン中は僕自身が交渉するのは難しいのでT2C(マネジメント会社)に手伝ってもらいましたが、アルファーズに関しては僕が直接話をしました」
これまでの実績を考えれば当たり前のことだが、安齋に触手を伸ばしたクラブは他にもあった。ただ、準優勝に終わった一昨季の時点でも一度HC退任を考えたという安齋は、数あるオファーの中から候補を絞った結果、越谷でアドバイザーという肩書を背負うことを選ぶ。
「HCをやるつもりがなかったのでHCのオファーは全部断りを入れて、じゃあどういう仕事をしようかなと思ったんですが、チームを強くする、良いクラブにしていくという一端を担うのはブレックスでやってきたことでもあるので、アルファーズなら力になれることもあるかなと思いました。あとは、家族が宇都宮にそのままいるので、すぐ帰れる所というのも決め手の一つではありましたね」
HCのオファーを断った理由については、宇都宮退団の際に語った「自分のバスケット観を見直したい」という言葉がそのまま当てはまる。2017-18シーズンの途中から5シーズン近く指揮を執ってきた安齋は、最終的な決定権が自身にある状況で考え方が凝り固まってしまっていることを自覚し、多様な発想に触れたい想いを強くした。桜木ジェイアールスーパーバイジングコーチ(SVC)がいる越谷では、一歩下がった立ち位置でHC時代とは異なるアプローチに取り組んでいる。
「今越谷でやっていてもどうしても自分の感覚のバスケットになっちゃうところはあるんですが、決定権はない状況なので『この場合はこういう考え方があるけどどうか』とか『この動きだったらこういうふうにしてみたらいいんじゃないか』という指導はできていますし、ジェイアールのコーチングを見て『こういうやり方もあるんだな』という勉強もできています。選手だけじゃなくアシスタントコーチも育てる方向で時間を使っていて、そういうことをしながら自分の成長につなげていけるという気はしてますね」