終始する更新と渇望(前編)より続く
2019年、サンロッカーズ渋谷に移籍した石井講祐は戸惑いを感じていた。
それまで身を置いていた強豪クラブとは一線を画す空気が、そこには漂っていた。
自らが歩んできた道にあふれていた並々ならぬ厳しさ。それらを乗り越えることで成功を手にした石井にとっては、物足りない思いのしたことだろう。
しかし、「これから文化を作っていこうという段階だったと思う」と石井が話すとおり、大きな変化の始点に立ったばかりのチームを覆っていたのは、未熟さではなく迷いだったのかもしれない。
実際に石井が加入した最初のシーズンでSR渋谷は天皇杯を制し、チームが栄光を手にする基準に達していることを証明している。
行き先に逡巡するチームの地図として、石井の経験が大きな役割を果たしたであろうことは想像に難くない。
だがその一方で、石井もまた自身の知見が広がる経験をする。
新しい世界からの、求めていたものとは別の応答。
未知に触れ、より豊かな選手性を得た石井がチームのために「できること」は、増えていった。
もっとバチバチ練習中にやりあってもいいんじゃないかなって思っていました。常にポジション争いがあって、年齢とか関係なく競争することがチームの底力を上げていくはずで、そういう厳しさがこのチームに必要だと感じていました。僕もそれまでのサンロッカーズがどんな雰囲気だったのかは知らないので、もともとそういうものなのかどうかはわからなかったけれど、でも徐々に、練習中の激しさは増していきました。1対1とか、相手とやりあう競争の雰囲気とか、トレーニングやワークアウトに対する姿勢だとか、シーズンを追うごとに意識が高まっていく手応えがありました。それは最初から出来あがっていたというよりは、みんなで新しく作り上げようと努力したチームの雰囲気で、それを目指したことが結果として天皇杯の優勝につながっていったのだと思っています。
競いあうことの大事さももちろんあるんですけれど、でもそれにプラスしてムーさん(伊佐勉HCの愛称)のコーチング哲学のようなものでもあるんですけど、みんなで盛り上げて、お互いにひっぱり上げて、っていう側面もありました。みんなが真剣に勝負をして空気がピリピリしてるんですけど、その一方でちゃんとバスケットを楽しんでいる。競争とか、5対5の勝負を楽しんでいるような雰囲気がどこかしらにあって、それに対して僕は新しい感じを受けました。ひとつのミスも許されないような緊張感の中でプレーしていく厳しさが選手を高めていくというのもあると思うんですけど、そういうものよりは、みんなで鼓舞してやっていこうという印象が強かったですね。誰かの1対1のプレーにワーっ、とみんなで盛り上がったり、試合中もベンチで出る出ないに関わらず、仲間がいいプレーをしたら騒いだりとか。どちらがいいということではないですが、これまで自分が経験してきたようなマネジメントの仕方とはまたちょっと違う新鮮さがありました。