試合後のセレモニーでは4人から花束の贈呈があったが、そのうちの1人が長年の盟友である佐古だ。高校2年のときから続く交友は実に35年。1970年生まれのこの世代は他にも多くの日本代表選手を輩出して黄金世代と称されたが、この2人が日本のバスケット界をけん引し、お互いを自身のバスケット人生に欠かせない存在だったと認識し合っている。それだけに、この日のために過ごしたトレーニングの日々を佐古が「2度目の青春を謳歌した」と表現したのは大げさでも何でもない。
そしてその直後には、折茂にとって本当のラストシュートの機会が訪れた。正面やや左の位置に立った折茂の3ポイントをアシストするのは、もちろん佐古。「決めなきゃというプレッシャーはあった」と言いながらも、躊躇なく放たれたシュートはきれいにリングの中央を射抜いた。一発で決めてみせるあたり、繰り返しになるが、折茂は最後まで折茂だった。
いよいよ迎えたフィナーレのとき。ご存じの方も多いと思うが、トヨタ自動車時代の折茂はただひたすら自身のプレーと勝利にフォーカスし、ファンの存在を全く意に介さない選手だった。そんな折茂の意識を変えたのが、15年前に降り立った北海道の地。27年のキャリアでプレースタイルや勝利への執念が変わることはなかったが、唯一変化した点がファン・ブースターへの想いだ。最後の挨拶で、折茂はコート中央から観客席を見渡しながら何度も感謝の言葉を口にした。
「この景色って、現役選手じゃない限り見られないじゃないですか。今日改めて、素晴らしい景色だなと思いました。シュートが入って皆さんに拍手してもらえる、27年間のバスケット人生は本当に幸せだったなと思います。今後は日本バスケット界のために、Bリーグのために、レバンガ北海道のために、そして僕を見捨てなかった北海道のために、ファン・ブースターのために頑張っていきます」
そんな感謝の想いは、台本になかったという折茂の行動に表れた。スタッフから受け取った自身のスマートフォンを観客席に向け、動画を撮り始めたのだ。360°をゆっくりと撮るその表情は、心からの感謝がにじみ出た穏やかな笑顔だった。
2年のときを経て、真の意味で選手生活に区切りをつけた折茂。レバンガ北海道の代表職に専念するこれからも、変わらずに日本バスケット界に必要とされる存在であり続ける。そして折茂自身も、多くの人の支えに感謝しながら、自身の理想を追求していくことだろう。
文・写真 吉川哲彦