「そのころには勇樹と同じことをやっても意味がない。文男さんと同じことをやっても意味がない、自分しか表現できないことをやらなきゃ意味がないんだということがはっきりわかっていました。自分が表現すべきことは最初に言ったタフなディフェンスとチームを鼓舞するエナジー。ひと言で言うならばチームに勇気を与えるようなプレーです。時々、ディフェンスであそこまで動きまわると疲れませんか?と聞かれることがありますが、はっきり言って疲れます(笑)。だから練習ではプラスαのトレーニングが必要。あたりまえですが準備が大切なんですね」
そう言いつつも、もちろん “ディフェンスの藤永” だけで終わるつもりはない。ここ1本の外角シュートや力強いドライブ、オフェンス面の向上を課題として努力も重ねてきた。
「その成果と言ったらおこがましいかもしれませんが、徐々に成長できている手応えはあります。シュートだけではなく、切り込んでさばくパスもそうですし、ディフェンスを見てプレーできるようになったというか、求められる “賢いプレー” ができるようになったというか」
そう言ったあと、「いえ、これはスキルコーチの力が大きいんですけど」とあわてて付け足すところが何とも藤永らしい。聞けば座右の銘は『感謝』なのだという。
「自分はこれまでケガが多くてすごくたくさんの人に助けられてきた選手なので、やっぱり最初に浮かぶのは感謝です。それは絶対忘れちゃいけない。たとえばさっき言ったスキルコーチもそうですし、今も自分の足をずっと気遣ってくれているトレーナーもそう。大野さんをはじめとするコーチングスタッフ陣のおかげで質の高い練習ができています。もちろんチームメイトの力もあります。そう思ったら、高校時代、大学時代、東京Z時代の先輩や名古屋時代にめっちゃお世話になった石崎(巧)さんや…」と、感謝する存在の名前が延々と続く。聞いていてなんだかほっこりしてきたのは、一つひとつの感謝から藤永の人柄が伝わってきたせいだろう。
30歳の藤永の中にいる『愛される少年』
千葉から退団するニュースが流れたとき、多くの千葉ブースターから悲鳴が上がった、ファン投票で決まる『みんなが選ぶベストプレー』をのぞいてみたら、堂々1位に輝いたのは、宇都宮に競り勝ったギャビン・エドワーズの逆転3ポイントではなく、サンロッカーズ渋谷戦残り12秒で勝負を決めた富樫の3ポイントでもなく、川崎が手にしたリバウンドボールをひっかけて奪うと、そのまま一直線にゴールに向かい苦しい体勢からバスケットカウントまでものにした藤永の速攻だった。投票とともに寄せられたコメントを読みながら、あらためて『愛された選手』なのだなと思う。
それにしても好感度が増すばかりのインタビュー。「少しは自分の中にネガティブなところはないの?」と、少し意地悪な質問をしてみたのだが、それさえも「ネガティブ?うーん、それはあまりないですね」の答えの前に撃沈した。
「何事も前向きじゃないと人生は楽しくないじゃないですか。それに僕は大好きなバスケットを続けられていることがうれしい。それだけで楽しいんです」
水泳からバスケット1本に絞り「やったぁ」と飛び跳ねたあの日、「バスケットに青春を懸ける!」と意気込んで故郷を離れたあの日。『バスケが好きでたまらない少年』は今も藤永の中にいる。30歳で新天地に向かう来シーズン。多少の不安を覚えながらもポジティブに全力を尽くす姿勢に変わりはないだろう。藤永の中に息づく少年はきっとこれからもたくさんの人たちから愛されるに違いない。
千葉ジェッツ #15 藤永佳昭
僕の中の少年
前編:『期待のちびっ子スイマー』から『熱血バスケ少年』へ
後編:学生代表メンバーに選出されたことが人生を変えた
文 松原貴実
写真 B.LEAGUE