前編:力が足りないなら努力するしかない より続く
島根でB1を目指すと誓った日
Bリーグのチームからオファーがないまま時間は流れたが、プロになる夢はあきらめたくなかった。そんな阿部のもとにサンロッカーズ渋谷から特別指定選手の話があったのは最後のインカレが終わって間もなくだ。「ケガ人が多かった渋谷はその穴埋めになる選手が必要で僕に声をかけてくれたのだと思います。でも、理由はどうであれ、やっぱりうれしかった。プロの世界を知るチャンスだと思ったし、たとえ短い期間でもやれることはなんでもやりたいと思いました」。外国籍選手を筆頭に学生とは比べものにならないフィジカルの強さ、覚えなくてはならないフォーメーションの数々、いくつもの決まり事を含め『出来上がっているチーム』に途中から加わることの難しさ。初めて触れたプロの水は想像以上に冷たかったが、「それでもプロへの入り口に立てたことで得たものは多かった」という。シーズン終了とともに渋谷との契約が満了となった1ヶ月後、阿部のもとにB2の島根から正式契約のオファーが届く。そのときの正直な気持ちをひと言で言えば「予想外!」。だが、すぐに「ありがたい」という思いがこみ上げてきた。「自分のプロ生活はここからスタートするんだと思いました。自分を見つけてくれた島根が1部に昇格できるよう全力を尽くそうと、覚悟が固まったような気がします」
Bリーグにおける島根の戦いを改めて振り返ってみると、Bリーグが開幕した2016-17シーズンにB2西地区2位の成績で早々とB1への自動昇格を決めている。だが、ヘッドコーチをはじめメンバーが大幅に変わった翌年は21連敗というワースト記録とともに18チーム中最下位に沈み、残留プレーオフにも敗退して再びB2へ降格。阿部が島根に入団したのはその翌年、B2で仕切り直しを目指す2018-19シーズンだった。レギュラーシーズンを43勝17敗(西地区2位)で終えた島根はワイルドカード争いで1位を勝ち取りB2プレーオフに進出するも結果は3位。ところが1位の信州ブレイブウォリアーズ、2位の群馬クレインサンダーズがB1ライセンスを所得しなかったため繰り上げの形でB1昇格の権利を獲得する。つまり、島根にとってやや運が味方した昇格だったとも言えるが、B1の舞台を目指していた阿部の胸は躍ったに違いない。しかし、その後にスタートしたB1での戦いは苦しいものだった。コロナ禍で中止となったことで入替戦はなかったが、この2年間は下位に低迷したまま。その要因について阿部はこう語る。「自分たちの力を最大限に発揮する前に相手に合わせてしまうようなところがありました。最初から最後までチームのスタイルを貫くというのができていなかったと思います。クロスゲームになると自分たちで空中分解してしまうような…」。ならば今シーズンはどう変わったのか?尋ねたとたん、阿部の顔がバッと明るくなった。
今季の島根は「あきらめないチーム」
「まず金丸さん、安藤さんという勝ち方を知る選手が入ってきてくれたのが大きいです。安藤さんはどんな試合でも勝ちに行こうという強いメンタリティがある人。同時に試合は1人では勝てないことを知っているからポイントガードとして常にみんなを引き上げようとしてくれます。また、金丸さんは改めて言うまでもないぐらいシュート力がある人。いつだったかうちが勝って金丸さんがMVPになったとき『シュートは決めてあたりまえという気持ちで打つ』と言っていて、やっぱりこの人はスゲーと思いました」