中編:ハドルを組んで指示を出す1年生 より続く
復帰4試合目で勝利の立役者となる
「やっと東海大に戻れてみんなと練習ができるようになったことはめちゃくちゃうれしかったです」。その話になると今でも大倉の声は弾む。「最初はみんなに混じってボールを追ったりはできなかったけど、朝の7時にトレーニングルームに行って、帰ってからちょっと昼寝して、また夕方に体育館に行って、練習が終わってからみんなで夜ごはんに行くっていうサイクルが戻ってきたんですね。僕はこのサイクル、そういった時間が大好きだったのですごく幸せでした。(東海大に)帰るまでは携帯のカレンダーを見ながらあと何日、残り何日ってカウントダウンしてたぐらいですから(笑)」。ボールを追えない代わりにやっていたのは仲間たちへのアドバイスだ。「もともと自分からどんどん意見を言う子ですからね」と陸川監督は言う。「たとえば練習生として千葉に行っていたときも帰ってくると『千葉のこういうワークアウトはうちでも使えると思う』とか学生コーチに話したり、参考になった練習メニューを紹介したり、自分の経験をいろんな形で還元してくれていました。ケガで走れなくてもしっかり練習を見て張正亮にポストプレーを教えたり、河村勇輝(現・横浜ビー・コルセアーズ)にあれこれアドバイスしたりするんです。みんな颯太を信頼してますから真剣に聞く。しばらくはそんな感じでした」。
念願の試合復帰が叶ったのは10月31日のリーグ戦(対早稲田大)。プレータイムにはまだ制限がかかっており13分弱の出場だったが、それ以降は順調にプレータイムを延ばし『ケガ以前の大倉颯太』を取り戻していった。9勝1敗の同率で並んだ日本大を相手に優勝を賭けた一戦が行われたのはリーグ最終日だ。スタメンで出た大倉は終始チームを鼓舞しながらゲームハイとなる22得点をマーク。77-59で日大を下し3年ぶり6回目のリーグ優勝の立役者となった。全治12ヶ月と言われた大ケガから10ヶ月足らず。大倉が見せたパフォーマンスは驚異的なスピードで成し遂げた完全復活宣言だったと言えるだろう。この大会でMVPとなった佐土原遼(現・広島ドラゴンフライズ)、優秀選手賞を受賞した八村阿蓮と河村勇輝、スター軍団と呼ばれる東海大の真ん中に大倉が戻ったことの大きさは計り知れない。後にキャプテンの伊藤領が語った「うちは颯太のチーム。みんなが颯太の帰りを信じて待っていた」という言葉どおり、大倉の復帰はチームを大いに沸き立たせた。大倉自身、自分の復帰がチームに与えるもの、そこで自分が担うものの大きさは十分わかっていたはずだ。「絶対勝ちます。うちは勝たなきゃならないチームなんです」── 近づいたインカレを前に彼が口にした言葉は今も耳に残っている。