HCとしてのキャリアを順調に送ってきた中でのチームの活動終了は、廣瀬HCとしても忸怩たる思いがあるだろう。リーグの完全プロ化と会社の合併に加え、活動終了にはもう一つの理由があるのではないかと廣瀬HCは推察。企業チームとしての最も大きな壁が立ちはだかったことに、無念をにじませる。
「真相はわからないんですが、昨シーズン優勝してしまったことが決断を早めたんじゃないかと思うんです。外国籍選手を獲るのも予算内でやっていて、会社にそんなに影響を与えているわけではない。それがこのタイミングでということは、『優勝でちょうど一区切りついてしまった』と会社の方が思ったんじゃないかと、勝手にそんな気がしています。入社2年目の選手なんかは予定が狂ったというか、まさかこんなに早くというのはあるでしょうし、可哀相ではありますよね」
今シーズンは選手の引退や移籍が多い中で迎え、さらにはディフェンディングチャンピオン、活動終了というプレッシャーがチームに押し寄せる難しい状況。しかし、「連覇が難しくなってきたところから吹っ切れたところはある。ここからはもう、自分たちのバスケットをしようと意識が変わっていった」という廣瀬HCの証言を裏付けるように、チームは試合を重ねるにつれて白星を伸ばしていった。安城地区希望の丘体育館でのラストゲームとなった4月3日は後半に波に乗って20点差の勝利。廣瀬HCは試合内容と同じかあるいはそれ以上に、チームを取り巻く環境の進化にも大きな手応えを実感した。
「ここ2年は声も出せない状況で、お客さんも難しかったと思います。そんな中でアウェーまで駆けつけてくれるブースターさんもいましたし、社員の方は土日まで会社に来ているようなものなので(笑)、本当に感謝しかない。プレーに対するリアクションを見ていると、ブースターさんも成長したと思うんです。企業然とした単調な応援だったのが、お客さん主体でアクションが起こるようになったのは本当に心強かった。良いときは盛り上がり、ダメなときはダメと言ってくれて、チームとともにあるんだなと実感しましたね。この3年間、かけがえのない時間を過ごさせてもらいました」
アイシンにはまだ4試合残されており、選手はもとより廣瀬HC自身もその後のことはまだ決まっていないが、この3シーズンの全ての経験をプラスに変えてきた廣瀬HCには、おそらく素晴らしいキャリアが待ち受けていることだろう。
「どのチームに行くかはわからないですが、『あのコーチはアレイオンズのHCだったんだよ』とか『アレイオンズのときと同じように良いバスケットしてるね』という風に見てもらえるようにしたいし、アレイオンズの皆さんにも『あの人ウチで優勝したんだよ』って誇ってもらえるようなキャリアを築いていきたいです」
来シーズンもどこかでまた廣瀬HCの雄姿が見られることを祈りつつ、常に心がけている「負けたとしても人の心を揺さぶるような、また見たいと思ってもらえるバスケット」が残りの4試合で存分に披露されることを期待しよう。
文・写真 吉川哲彦