1978年の創部以来44年に及ぶ歴史に幕を下ろす時が刻一刻と迫っているB3アイシンアレイオンズ。企業チームでありながら地域活動にも力を入れ、選手もプロの心構えを持って取り組んでいたことは先日の記事にも書いた通りだ。また、プロ契約の日本人選手を獲得するなど、強化を着実に進めていたことにも改めて触れておきたいところであり、2018-19シーズンに留学生以外で初めて外国籍選手をチームに加え、同時にヘッドコーチも初めて外部から招聘したことがその端緒となる。
当時のアイシン・エイ・ダブリュにとって初のプロコーチであった天日謙作HCは1シーズンで退任したが、翌2019-20シーズンもチームは指揮官をプロに委ねた。今シーズンが就任3シーズン目となる廣瀬慶介HCである。2011-12シーズンに大阪エヴェッサ(当時bjリーグ)のアシスタントコーチ兼通訳としてコーチングキャリアをスタートさせ、その後4クラブを渡り歩く中でB1の舞台も経験。サンロッカーズ渋谷とのAC契約が満了となったタイミングで本人はHC業を希望し、プロコーチを求めていたアイシン・エイ・ダブリュ入団に至った。
「中にはずっとACとしてキャリアを形成されている方もいらっしゃるんですが、この業界に入ったからには一度は自分の力を試してみたいという気持ちがあったので、キャリアのステップアップにこだわって探した結果、オファーをいただくことができました」
ただ、過去にコーチを務めてきたのは全てプロクラブ。廣瀬HCは就任早々、選手が社業に従事しているという企業チームならではの壁に直面することになり、「なんとなくイメージはあった」(廣瀬HC)というものの、「それを超える企業チームでした(笑)」と振り返る。
「最初のシーズンはまだコロナ禍前で、社員は業務も普通にやっていたので、残業も考慮して練習スタートが午後7時20分だったんですが、それでも来られない。日によっては4、5人しか集まらないこともあったので、そこはそれまで経験したことがない苦労した部分でギャップを感じましたね」
しかしながら、そんな中でも廣瀬HCはできる限りの手を尽くし、来たるべき戦いに備えた。外国籍選手の合流が遅れるというアクシデントもありながら、HCデビューとなる開幕戦ではベルテックス静岡を撃破。大きな手応えを得た廣瀬HCは、昨シーズンの優勝ではなくこの静岡戦を一番の思い出に挙げている。
「アウェーですごい数のオレンジ色のお客さんがいて、相手には外国籍選手も2名いる中で、我々は日本人選手だけで勝った。これは本当に気持ち良かったというか、会心でしたね。日本人だけでもここまで戦えるんだから、外国籍選手が合流してかみ合ったらもうプラスでしかない。それに、オフシーズンの間にやってきたこと、それまでACとしていろんなHCのバスケットを見て学んできたことが間違いじゃなかったんだと、自信の一つになりました」
そして昨シーズン、廣瀬HCは就任2シーズン目にしてチームにリーグ王者の称号をもたらす。就任前のシーズンにプロコーチと外国籍選手をチームに加えるという土台が築かれたことや、廣瀬HCと同時にチームスタッフに加わり、2シーズン目には部長となった安田学が廣瀬HCの声に耳を傾けたこと、従来備わっていた日本人選手の連係の妙。これらの要素が重なって最高の結果に結びついたが、その中で廣瀬HC自身も指揮官として大きく成長した。
「それまではACやビデオコーディネーターという立場で、何かをコントロールするということがあまりできませんでした。言われたことをやる、気づいたことを言うくらいのことしかできなかったんです。でも、このチームでは自分しかいないわけです。特に戦術面に関しては全ての判断が自分1人になる。今後のことを考えても、プラスの経験になったと思います」