B3リーグ参入1シーズン目の長崎ヴェルカは、クラブ自体が歴史が浅く若いのはもちろんだが、ルーキーを4人も抱えている上、つい先日には青山学院大学に在学中の山崎凛を特別指定選手として獲得し、この先に長いキャリアが待ち受けているであろう選手が多いという点も大きな特徴だ。しかしながら、そんな彼らをあるべき方向に導く存在がチームには必要であり、チーム強化の責任者である伊藤拓摩GM兼ヘッドコーチも経験豊富な選手を数名迎え入れている。
Bリーグになってからの5シーズンを全てB1でプレーし、昨シーズン限りでサンロッカーズ渋谷を契約満了となった野口大介は、引き続きB1でのプレーを希望し、エージェントを通じて移籍先を探っていた。しかし、実際にB1クラブからのオファーもあり、新規参入クラブに対する不安感もあったにもかかわらず、野口が選んだのは長崎だった。その理由は後述するとして、選手獲得に際しては人間性を重視し、オファーを出す前に必ず選手の周辺にリサーチしていたという伊藤GM兼HCが野口に目をつけた理由について先に触れておきたい。
「まずはやはりリーダーシップの部分です。いろいろヒアリングしたところ、彼の兄貴肌なところや男気の部分、正しいことを真面目にやり続けられるプロフェッショナルな姿勢がよくわかりました。1年目でクラブの文化が全くない中、その一歩目に彼のような選手がいることで文化を作ることができる。プレーの面も、5アウトのシステムや3ポイントを多くしたいという戦術があったので、3ポイントの得意な彼はそこにすごく合うし、ディフェンスでも彼の知識や経験は頼りにしていましたね」
野口の人となりを多少なりとも知る人ならば、このオファーの理由は大きく頷くところだろう。ただ、伊藤GM兼HCが野口をどれほど必要としていたか、それについては野口の証言を聞いたほうがより明確に理解できる。新天地に長崎を選んだのは「拓摩さんの熱意」(野口)に他ならなかった。
「B1のクラブからきた契約条件はその都度ヴェルカにも伝えていたんですが、それを上回る条件をどんどん出してきた。レスポンスも本当に早くて、拓摩さんは『また後で電話する』と言ってすぐにまた電話をくれたりしたので、これだけ熱意があるなら断る理由はないなと思いました。この年齢で、外国人ならまだしも日本人をここまで欲しがってくれるのは本当にありがたい。北海道に住む家族からはより遠くなりますが、もちろん了承を得て長崎に行くことにしました」