「NBAにいた頃はまだそこまで3ポイントシュートを確率よく決めることができなかったので、ロールとポップを使い分けてプレーしていました。ただロールするといっても勢いよくゴールに向かっていってダンクする、というわけではなくて、ロールする距離を短く、ショートロールしてディフェンスの手前でフローターを打つようなプレーが多かったです。今のようにポップするよりも、ショートロールする回数の方が多かったですね。」
ビッグマンが3ポイントを積極的に打つようなバスケットスタイルは、比較的新しいものだ。
それ以前はゴール付近でのプレーのみを求められ、アウトサイドのシュートの練習が許されない雰囲気すらあった。
長身でありながら、卓越したシュートタッチを持ったファジーカスの適正は、そのころのNBAのスタイル、あるいは所属したチームのニーズとは合致しなかった可能性もあっただろう。
リーグが変われば選手も変わり、チームのプレースタイルもそれぞれ違ってくる。
今のBリーグで必要なスキルが他の国でも同じように必要とされているとは限らず、国が変わるたび、チームが変わるたび、環境への順応が欠かせない。
そしてそれは簡単な作業ではなく、時には全く新しい自分への変化を迫られるため、思わぬつまずきを経験することも珍しいことではない。
ファジーカスは日本に来て10度のシーズンをすべて川崎で過ごしているが、それ以前は一つの場所に長くとどまることをしてこなかった。
頻繁に環境が変わる生活と、長く同じ場所に留まる生活の両方を知る彼は、時間が及ぼすチームケミストリーへの影響についてこのように語る。
「僕自身、このチームに10年間在籍していますが、ユーマやリュウセイ(篠山竜青)のように長い間一緒にプレーしている彼らとのコンビネーションは洗練されたものがあると感じます。それは長い時間をかけて、なにをしたいか、どんなプレーが好きかをお互いに理解した上で生まれるコンビネーションです。それは2、3年だけであったり、ましてや1年しか一緒にプレーしていない選手とのコンビネーションとは明確に違うものであり、短い時間で完璧なものを作り上げるのは不可能です。長い年数、一緒にやればやるほど、ピックアンドロールの成熟度は上がっていくものだと思います。」
前述したストックトンとマローンは、実に18年の期間をともに過ごした。
その18年間、輝かしい成績を収め続けながらも、優勝には届かなかった。
二人の間に完全無欠の連携が成立していたならば誰にも阻むことはできなかったはずだが、それはつまり、どれだけ成熟したコンビであってもお互いの理解、コンビネーションに完成や上限がないことの証とも解釈できるのではないだろうか。
もう10年。
まだ10年。
ファジーカスとのピックアンドロールから生まれるコンビネーションプレーにも、まだまだ発展の余地が残されている。
川崎ブレイブサンダース #22 ニック・ファジーカス
Gravitational field of Fazekas
前編 https://bbspirits.com/bleague/b22032201/
中編 https://bbspirits.com/bleague/b22032301/
後編 https://bbspirits.com/bleague/b22032401/
文 石崎巧
写真 B.LEAGUE