それぞれのチームが、川崎と対戦するときと、川崎以外のチームと対戦するときとの守り方を見比べてみると面白いことがわかる。
川崎以外と対戦するときはアクティブに動き回って守るビッグマンが、ファジーカスにマッチアップした途端、まるで何かに引っ張られるように一定の距離から離れなくなる。
そこには既存の重力理論では説明できない、人類にとって未知の力学が発生しているように見える。
オフェンスは攻めるにあたって、一番確率のいいゴール付近のシュートを選択したいものだが、そこには味方のビッグマンを守る長身のディフェンスがいるケースが多いため、簡単に近づいてはいけない。
だがファジーカスがアウトサイドに出てくれば、それに連れられてディフェンスもゴールから離れる。
そのあいたスペースへ、川崎のプレーヤーは勢いよく攻め込むことができる。
川崎の躍動感の由来はこのファジーカスの重力にあり、そしてそれは本人の意図するところでもある。
「ピックアンドロールを使えば、もちろん自分自身にもアドバンテージが多く生まれます。ですがそれよりも、僕とのピックアンドロールでチームメイトに可能な限りたくさんのアドバンテージを作ることの方が重要だと考えています。僕にとってはチームメイトのオープンな状態をより多く作るための有効なオプションが、川崎のピックアンドロールだと思っています。イシザキ、あなたも逆側の立場だったことがあるからわかると思いますが、僕たちのピックアンドロールを止めるのは至難の技です。それは僕を守るのが難しいからというのも理由の一つですが、それ以上に川崎のチーム構成があるからだと考えます。僕たちのロスターはお互いの長所を活かすようなバランスになっていて、例えばパブロ(アギラール)やジェイ(ジョーダン・ヒース)のようにフロアの広い範囲でプレーできる選手が相手を守りづらくさせます。それに加えて上手くピックアンドロールを使えるマット(ジャニング)や素晴らしいシューターのサトル(前田悟)を新たに迎え入れ、よりハイレベルなバスケットボールIQで全員が得点を取れるチームになりました。そういったチームメイト一人一人の能力が、川崎のピックアンドロールの威力に比例しています。」
自身の持つ影響力を正確に把握した上で、勝つための最適解を「チーム」に求める。
各々が自分を最大限に活かしてこそ、より大きな最大公約数を持った集団となる。
チームプレーヤーであるためにやるべきは「個」を殺すことではない。
ファジーカスの重力によって実力を十分に発揮したチームメイトに、また新たな重力が発生しディフェンスを引きつける。
それがファジーカスを守るディフェンスに少しでも作用すれば、相手は失点を免れない。
この無限ループは、まずその発生源を無効化しなければならないのだが、本人が客観的な視点で見る通り、その方法は今のところ存在しない。
歴史上の偉大な物理学者たちもこの現象を観測していたとしたら、きっと舌を巻いていたに違いない。
Gravitational-field-of-Fazekas(中編)へ続く
文 石崎巧
写真 B.LEAGUE