アイザック・ニュートンの主張によれば、2つの物体の間には引力が存在し、お互いに引き合う性質があるという。
その後、アルバート・アインシュタインは一般相対性理論において、重力が時空の歪みであると説明し、万有引力の法則をアップデートした。
いずれの考え方においても、カギとなるのは物体の質量。
質量を持つ全ての物体には重力が発生し、質量が大きければ大きいほど重力は大きくなる。
つまり、人間一人一人も時空を歪め、重力を発生させてはいるのだが、地球などの天体に比べてあまりにその質量が小さいため、認識することができない。
しかし近年のBリーグにおいて、この重力理論を覆そうとしているプレーヤーがいる。
川崎ブレイブサンダース、ニック・ファジーカスだ。
バスケットボールはオフェンスが有利なスポーツとされており、一人のディフェンダーが自分のマッチアップを完璧に抑え続けるのは不可能に近い。
そして1対1よりもさらに、オフェンスにとって有利な状況を作るための手段がピックアンドロールだ。
ボールを持っているプレーヤーにスクリーンをかけるこのプレーでは、まずはボール保持者であるユーザーの技術と判断力が重要となるが、スクリーナーの能力もプレーの成否に大きく影響する。
僕のイメージするピックアンドロールの優勢度をわかりやすく計算式で例えると、
(ユーザーの能力+スクリーナーの能力)−(ボールを守る人のディフェンス力+スクリーナーを守る人のディフェンス力)=成功確率
のような概念だ。
わかりやすくなったかどうかはさておき、例えばユーザーが最低限の能力しかなくてもスクリーナーがずば抜けてすごいヤツだとディフェンスを圧倒できる。
その「ずば抜けてすごいヤツ」ことファジーカスは、自分のプレーについてこのように表明する。
「正直、僕を守り切れる方法は存在しないと思っています。例えば外のシュートが入らないなど、なにかしらの不得意を持っている選手が相手であれば、その弱みをピックアンドロールの守り方に活かすことは可能だと思います。ですが僕はいろいろな形で点数をとることができるので、今のところやりづらいとか、何もできないと思うようなピックアンドロールディフェンスに出会ったことはありません。」
傲慢だと感じるだろうか。
だがこれは事実だ。
読者諸賢も十分にご存知かと思うが、普通にやっていてはファジーカスを守ることなどできない。
だからこそ対戦相手は趣向を凝らした「ファジーカス破り」を試みてくる。
それに対処するためには、謙虚で控えめな姿勢を一旦脇において、状況を冷静に把握しなければならない。
自身の実力も含めて。
「ピックアンドロールは僕たちのオフェンスにおいてとても重要だと思っています。セットプレーや様々なオフェンスに組み込まれていますので、オフェンスの大黒柱と言っても過言ではないと思います。その川崎のピックアンドロールがなぜ有効なのかと言えば、僕を守りづらいというのが最大の理由でしょう。相手チームは僕を守るために様々な形を取らなければなりません。僕たちのピックアンドロールに対してショウをしてくるチームもあれば、僕から離れないチームもあります。ショウをして、僕をマッチアップしていたディフェンスがガードについていった場合は、僕がノーマークになります。ですが今のリーグの傾向として、大抵の場合は僕から離れずにずっとくっついている守り方が多いです。それは僕にボールを渡さないようにして、その上でユーザーに状況判断をさせたいのだと思います。その状態でピックアンドロールに入れば、ユーザーのディフェンスと僕のディフェンスの2人が僕にくっつくことになり、簡単に4対3の状況が生まれます。このアドバンテージがあるからこそ、川崎のオフェンスでピックアンドロールが軸となっているのです。」