しかし、そんな中でも堀田HCはポジティブであり続けようとする。選手たちに対するアドバイスは「ミスしても切り替えよう」という内容が多く、ミーティングでは「成長するチャンスだ」と言っているそうだ。必ずしも順風満帆ではなかったこれまでのコーチングキャリアがそこに生きており、わずか2勝止まりだった青森での経験も無駄にはなっていない。
「なかなか選手が揃わない状況で、オフェンスもディフェンスもいろんなことを試しました。それでいろんなことが吸収できて、勝ち星は作れませんでしたが良い経験になったと思いますし、奈良でもまた新たな発見がありました」
そんな経験が生きたのか、2月26日のアースフレンズ東京Z戦でリードチェンジを繰り返す厳しい競り合いの末に2点差で勝利。就任6試合目での初勝利は、チームの連敗を15で止める大きな1勝となった。
「選手たちが40分間集中力を切らさず、よく頑張ってくれた。選手たちにはもっと早く勝利をプレゼントしたかったんですが、逆に選手たちからいただいた形になりました。私が入る前から連敗が続いていましたが、これが良いきっかけになればと思います」
堀田HCによるチーム作りはこれから本格化する。戦略面は前HCの方針をある程度踏襲した上で、自身がこれまで築いてきたコーチング哲学を少しずつ落とし込んでいくことになる。堀田HCは「何が一番フィットするのかを見極めたい」とメンバー構成に合ったスタイルを探りつつ、「今日は相手を70点に抑えることができた。ディフェンス力のあるチームを作りたいし、自分は早いペースのバスケットが好きなので、もっと走ることもやっていきたいです」と展望を語る。
堀田HCは、多くのクラブを見てきた経験から、青森ではクラブ全体の発展も意識し、フロントに対しても助言してきたという。残念ながらそれは道半ばとなってしまったが、幸いにも新天地はトップスポンサーに大手製薬会社を抱えている。与えられた環境に感謝し、堀田HCは勝てる組織作りに邁進する。
「奈良には練習用の体育館もありますし、スポンサーさんのバックアップもたくさんあります。加藤(真治)社長を筆頭にフロントがチームのためにすごく動いてくれているのも見ていますし、シーズン途中からHCに迎えてくれたことに感謝しています。それだけに、勝てないことに申し訳ない気持ちがありましたが、これが次の1勝につながるように、クラブのため、チームのためにやっていきたい。ブースターやスポンサーの方々、応援してくださる多くの皆さんを笑顔にできるように頑張ります」
何の因果か、対戦相手の東京Zがこの奈良戦を最後にウーゴ・ロペスHCとの契約を解除。就任1シーズン目の指揮官の処遇について改めて考えさせられるが、ひとまず奈良に関しては、今回の指揮官交代が良い判断だったと言えるよう、堀田HCによる中長期的なチーム作りが進められることを願う。
文 吉川哲彦
写真 B.LEAGUE