ドリブル一個、あるいはステップ一歩単位で駆け引きを行う木下。
そんな彼がリーグ内で駆け引き勝負をし続けてきて、凄いと感じたビッグマンはいたのだろうか。
「信州のマクヘンリー選手(信州ブレイブウォリアーズ、アンソニー・マクヘンリー)はあそこの駆け引きが本当に上手くて。僕の苦手な間合いで守ってくるのでなかなか攻めづらかったです。嫌な間合いで守ってくる選手と、この間合いならいけるわっていうのがあるんですけど、Bリーグの外国籍選手の中やったら一番嫌な間合いでした。」
木下にしかわからない「自分の間合い」を、意識的にか無意識なのか、把握したような守り方をするマクヘンリー。
目には見えないがとんでもない争いがコートの中では繰り広げられているらしい。
木下にとってディフェンスとの駆け引きに欠かせない「間合い」。
それは、味方にも影響するものなのだろうか。
パスを出しやすい、あるいは出しづらい味方との距離感も感じながらプレーしているのだろうか。
「それはもう練習をやっていかないとできないですね。ビッグマンがここでもらったらシュートに行きやすそうだなとか、いつもこういうふうなもらい方してるなっていうのは、見ながらやりながら、ビッグマンそれぞれに変えるようにはしています。」
そこはやはりカウンタータイプ。
ビッグマンの特徴に合わせて変えていく。
「そうですね。ピックを使ったあとに、ミドルシュートが上手い選手であればそこに合わせてパスを出したりとか、もらってからドリブルせずにレイアップへ行きたい選手にはもう一個ドリブルをついて、ゴール近くまで来るのを待ってからパスしたりとか。ビッグマンが一番シュートに行きやすい場所でボールを渡せるように、選手によって変えています。」
つまり、自分に合わせてもらうのではなく。相手が誰だったとしても自分が合わせられる、ということだ。
「やっぱりそういうのができないと試合にも絡めないのかなと思っています。そこの遂行力というか、誰と出ても自分が同じようにプレーをできるように意識しています。」
「犠牲になる」という言葉で自身の役割を表現してくれた木下だったが、取材を終えた僕の印象はそれとはかなり違っていた。
もちろん、彼は周りのためにプレーし、周りを活かすプレーを好んでいることに違いはないが、そこにネガティブな感情を抱いているようには見えなかった。
バスケットにおけるあらゆる状況、敵と味方の全てに対応していく、本当の意味で万能な選手を目指していて、そしてそれを楽しんでいる。
チームメイトそれぞれの特徴を掴み、それに自らを順応させてプレーするその姿勢は、彼のスキルをより幅広く向上させている。
周囲に対する尊重を失わず、全体が良くなるための行動を起こし続ければ、結果的には自分に大きな利益をもたらすことになる。
それこそが、本当の意味での自己中心的な行動だと僕は思う。
そして木下はまさしくそんなプレーヤー。
自分とチームメイトの両方を良くしていける存在。
一家に一台たこ焼き器、ならぬ、一チームに一人、木下誠。
お後がよろしいようで。
大阪エヴェッサ #31 木下誠
まことのものさし
前編 https://bbspirits.com/bleague/b22030801/
後編 https://bbspirits.com/bleague/b22030901/
文 石崎巧
写真 B.LEAGUE