これほどパスのこだわりが強いのであれば、やはりピックアンドロールを使う優先順位として味方を活かす、パスをすることがまず最初に来るのだろうか。
「自分でシュートに行ったり、パスをしたりっていうのは状況を見ながらやっています。最初からプレーを決めてしまうと相手も対策しやすくて楽に守られちゃうので。まずは自分がシュートを狙いに行きながら、パスも見るようにしています。でもやっぱりスクリーンに来てもらっているので、自分のためだけではなくてそこはまずインサイドの動きを大事にしています。ピックをかけに来てくれていて、そこにディフェンスをヒットさせてしまえばそれだけでもう2対1ができるわけだから、ピックを使う前にあらかじめ自分のディフェンスに対して逆サイドにフェイクを入れたりして、インサイドの選手がスクリーンをしやすいようにしています。」
自分のやりたいことを優先するというよりは、状況を見ながら、インサイドの選手とタイミングを合わせることで、より幅広いケースに対応できるというわけだ。
「一番心掛けているのは、我慢。待つということ。やっぱりスクリーンと同時に行っちゃうと、インサイドのムービングファウルになったりするので、しっかりとインサイドを待ってスクリーンを使うようにしています。待ってる間にチャンスがあれば、リジェクトを狙ったりもします。」
高いパススキルを持つ木下だが、パスだけではなくドリブルも上手い。
ピックアンドロールでペイントエリアに入っていくと、人が密集した状態になることが多い。
複数のディフェンスと密接したエリアでドリブルを続けるためには多方面からボールを守らなければならず、自由な移動が制限される。
そんな密閉地帯でも木下は冷静に、ディフェンスとの適切な距離を取りながら、股の間を通したり背中越しにドリブルしたりして器用にボールを操っている。
彼のドリブルスキルで『やるなあ』と感心させられるのは、ヘジテーションの動きだ。
ドリブルで移動している最中に一度ストップし、再度同じ方向に動き出すこの動きが躊躇しながら進んでいるように見えることから「ヘジテーション」と呼ばれているが、このスキルがピックアンドロールと非常に相性が良い。
スクリーンを使って2対1を作った後、このヘジテーションを繰り出すことがディフェンスに対してのフェイクになる。
シュートなのか、パスなのか、それともまた突っ込んでくるのか、ディフェンスを大いに迷わせる。
その動きがはっきりとすればするほど、ディフェンスは対処に困るわけだが、木下のそれは驚くほど緩急の差が激しい。
「ゼロヒャクの動きが自分は好きで、緩めたときに百を出せると自然とヘジテーションの動きになっているのが、僕の緩急の使い分け。ゼロから百にどれだけ速く持っていけるかを意識しています。」
もちろんこれも簡単なことではない。
恐らく日頃から練習を積み重ねて、少しずつ精度を高めていったのではないだろうか。
「僕はあの…昔、格闘技をやっていて、それがゼロから百にいく動きが多くて。そこで多分身についてるんかなっていうふうに思います。」
うんうん、なるほど、格闘技ね。
え?
まことのものさし(後編)へ続く
文 石崎巧
写真 B.LEAGUE