流れるようにパスが出る人だな、と思った。
ピックアンドロールからパスを選択する場合、絶えず動き続ける味方とディフェンスが1秒毎に状況を大きく変化させていくため、効果的なタイミングを見極めるには熟練された経験と技術が必要になる。
簡単に攻めさせないために、ディフェンス側からもフェイクなどの仕掛けがされることも多く、それに惑わされて躊躇してしまうユーザーも多い。
だがそんなことは意に介さず、プレーの過程で突然発生するチャンスを最初からわかっていたかのように、滞りない動きで難易度の高いパスを通す。
大阪エヴェッサの木下誠は、そんなプレーヤーだった。
取材の間中、一貫して
「犠牲になるのが好き」
「味方を活かすことが好き」
と語る木下。
絶対的エースとしてディージェイ・ニュービルが君臨する大阪において、木下はセカンドオプション以降の選択肢であることを甘んじているのだろうかと勝手に思い込んでいたが、どうやらそういうわけでもないらしい。
「やっぱり点を取ってくれる選手がいると僕も動きやすい。目立っている選手の影でいやーなところをつくっていうのが僕はやりやすいというか、あんまり目立つプレーとかはしないけど、一個一個、堅実にやっていってるっていう感じです。」
いや、目立ってるけどね。
上手いもん、パスだけじゃなくてドリブルも。あとシュートも入るし。
「どちらかというとハイライトにのるようなプレーじゃなくて、やっぱり見てくれる人は見てくれているような、っていう感じのプレーやと思います。わかってくれる人はわかってくれるかなっていう感じです。」
そうは言っても、けっこうみんなわかっちゃってるんじゃないかと思う。
実際、ニュービルのいない時間は木下のピックアンドロールが多く見られるし、ニュービルと一緒にコートにいたとしても、木下が起点となって得点するケースはスムーズなオフェンスに感じる。
ボールを持つ回数が多いということは、それだけチームの中でもスキルの高さを評価されているはずなのだが、自身のピックアンドロールについて木下は、
「得意か不得意かで言ったら…自分ではあまり得意だと思っていなくて。やってるときに、『あぁ、これもできたなぁ』っていうのがいっぱいあって、やっぱりまだまだ全然使えてないのかなっていうふうには思っています。」
と、納得のいってないご様子。
あんなにパスが上手いのに?
ドリブルしてたと思ったら、急に片手でフックパスをビシッとロールしたビッグマンに通したりするのだ。
「ピックを使ったあとにバウンドパスを出すと、インサイドの手も下に構えてることが多いので、そこは相手を見ながらフックパスにしたりバウンドパスにしたりしています。」
だがフックパスは難易度が上がる。
バウンドパスはドリブルと同じ動きのまま出せるが、フックパスはその真逆の動きをしなければならない。
複雑な動きになる分ミスする確率も高くなるが、それを簡単にやってのける。
「そうですね…なんていうんですかね……自分の距離感っていうのがありまして…基本的に僕にマッチアップする選手は僕より身長が低いので、下からだと相手に取られたりするので…取れなさそうな位置で投げたりします。」
とにかく相手に取られにくいパスをその都度、瞬時に判断して対応しているということなのだ。
しかも片手で。
「両手で持つタイミングと片手で持つタイミングで、相手も守りやすさが変わってくると思うんです。なので守りにくいタイミングってなんだろうなって動画を見返したりするんですけど、片手のタイミングの方が守りづらいし、ボールのムーブ的にもいいのかなって思います。」
ボールのムーブ的にも、というのはつまりドリブルをついて、ボールが跳ね返ってくる勢いを利用しながらそのまま頭の上にボールを持ってくる、ということだが、口で言うほど簡単なことではない。