バスケットボールには、けっして1人で完成させられないスキルがある。
パスである。
パスは、パッサー(パスの出し手)とレシーバー(パスの受け手)がいてこそ、成り立つ。
女子日本代表の町田瑠唯 ── 先日、WNBAのワシントン・ミスティクスと契約を結んだと発表 ── が東京2020オリンピックで、オリンピックにおける1試合最多アシスト(18本)を決められたのも、町田のパスを受けて、シュートを決めてくれたレシーバーがいてこそ。
「チームメイト全員に感謝したいです」
試合後に町田がそうコメントしたのは、他ならぬ彼女自身が「パスは1人では完成させられないスキル」だと認識しているからだろう。
もうひとつ、バスケットボールには、1人でできないスキルがある。
ピック&ロールである。
しかも「ピック&ロール」は、「パス」におけるパッサーと同じくらい、その大半がユーザーに注目が集まる。
スクリーナーの壁を巧みに利用し、シュートを打ったり、ドライブをしたり、アシストをしたり……。
ボールを扱うスポーツだけに、ボールを持っている選手に注目が集まるのは当然なのだが、繰り返すが、ピック&ロールは1人ではできないのである。
スクリーナーがいてこそ、ユーザーも輝く。
B.LEAGUEにおける現役最高のスクリーナーと言えば誰だろう?
さまざまな意見があると思うが、アルバルク東京のアレックス・カークもその一人である。
B.LEAGUE初の連覇を達成したA東京は、ルカ・パヴィチェヴィッチがヘッドコーチに就任して以来、ハーフコートオフェンスのベースを「ピック&ロール」に置いている。
そのスクリーナーとして存在感を発揮しているのがカークだ。
ならば、ピック&ロールの「ロール」については、まずカークに聞いてみよう。
と、ずいぶん枕(前置き)が長くなってしまった。
このままカークの「ピック&ロール」論に入ると “スペーシング” が悪くなりそうなので、まずはカークの近況や、選手としての心構えを聞いてみたい。
前記のとおり、A東京はB.LEAGUEを連覇し、アジアチャンピオンカップでも優勝を果たしたことがある。
しかしそこでのカークの貢献について、さほど取り上げられているようには思えない。
アレックス・カークとは、一体どんな選手なのだろう?
単なる来歴ではなく、選手としてのメンタリティを「ピック&ロール」論の前に聞いておきたい。
2人の “パワーハウス” がもたらす貢献
── 昨シーズン、ヘルニア(腰)の手術をしたそうですが、その後、腰の調子はどうですか?
腰の状態はもう大丈夫です。シーズン中にはアップダウンもありますし、特に今シーズンはコロナで隔離をしなければならないなど大変なシーズンではありますが、腰の調子は今のところ、いい状態で過ごせています。
── 今シーズンは竹内譲次選手が移籍しましたが(→大阪エヴェッサ)、ライアン・ロシター選手やセバスチャン・サイズ選手が加わりました。カーク選手にとっても変化が生まれたのではありませんか?
譲次さんがいなくなったことは寂しいです。チームとしても譲次さんがいたことでよいケミストリーが作れていましたし、私にとってもオン・ザ・コート、オフ・ザ・コートで譲次さんとはよい関係を築けていました。譲次さんは毎試合20点を取るような選手ではありませんでしたが、チームのバランサーとしていい役割を果たしてくれていたので、その彼がチームから離れたことは、チームにとってはタフなことです。ただその代わりに、 “ミスターブレックス” であったライアンや、サンロッカーズ渋谷や千葉ジェッツで実績を残してきたセバスといったパワーハウスの2人が来てくれたことで、経験値の高さという面でもチームにすごく貢献しています。また人間性もすごくいい選手で、オフ・ザ・コートでもチームのケミストリー向上にすごく協力していて、そういった面でも2人の貢献度は高いと思っています。