── 契約する10分前!
そうなんです。で、すぐに心を決めてハンコをしまって(笑)。残念なことですがその後に和歌山のチームはなくなってしまい、サンロッカーズに移籍した自分は天皇杯で優勝することができました。
── すごいお話ですね。ただ人生の分岐点で思ってもいなかった次の扉が開くというのはやはりそうなるべくしてなったような気もします。それまで木下さんが積み上げてきたものがあったからこそ開いた扉というか。
そう言ってもらうとうれしいです(笑)。で、そういった思わぬ縁をいただいた以上全力で応えなきゃと思うんですね。今回のアシスタントコーチも同じです。チームのために自分ができることはなんでもやりたい。
── アシスタントコーチの木下さんの目には今のサンロッカーズがどう映っているのでしょうか。
うーん、ぶっちゃけて言うと『優しいチームだなあ』と思います。現役時代の僕はガツガツやるタイプで、仲間を蹴落としても試合に出たいと思う選手だったのでよけいにそう感じるのかもしれませんが、このチームはいい意味でも悪い意味でも優しいですね。悪い面を挙げれば、リードを奪っている場面でさらに相手を叩きのめす強さが足りません。リードしているからこそもっとガツガツいって相手がカムバックできないぐらい突き放してほしいですね、そこにまだ甘さを感じます。でも、その一方でいい意味での優しさもあります。互いを思いやれるからチームの雰囲気はいいですし、今シーズンはライアン・ケリーというエースを欠いたまま戦っているわけですが、その穴をみんなで埋めようとよく頑張っていると思います。だから、あとはここぞという場面で相手の戦意を喪失させるぐらいの強さを持つことですね。それによって個々としてもチームとしてもさらにステップアップできるはずだと思っています。
── お話を聞いていると、木下さんの頭には24時間バスケットがあるように感じますが、生活の中で楽しみにしていることはありますか。
楽しみにしていること?なんだろう。思うに僕は幸せと感じることのレベルが低いんですよ。ご飯を食べるときも「ああ美味しいなあ」と幸せになるし、風呂に入っても「ああ気持ちいいなあ」と幸せになる。生活の些細なことで幸せになれる得なタイプなんですね(笑)、それといい人ぶるわけじゃなくて、周りの人が幸せになってくれたらうれしいタイプです。なので、やっぱり頑張っている選手たちの姿を見るのはうれしいし、チームが優勝して選手たちの喜ぶ姿が見られたら最高に幸せなんじゃないでしょうか。
── そう思うとアシスタントコーチの仕事に力が入りますね。
入りますね(笑)。サンロッカーズの一員としてはもちろんですが、僕個人としても負けたくない。サンロッカーズが昨年以上の成績を挙げて優勝争いに絡めるチームになれるのが目標ですし、シーズンを通して成長していけるよう頑張りたいです。
── では最後にセカンドキャリアに『コーチ』を選択した木下さんの今後の目標を教えてください。
やる以上目指すのは日本一のコーチです。まだまだ先は長いかもしれませんが、もっと学び、もっと経験して、必ず日本一のコーチになってみせます。選手として日本一になってコーチとしても日本一になるのはなかなか珍しいと思うのでそこを狙って頑張ります(笑)。
サンロッカーズ渋谷 木下博之アシスタントコーチ
熱血キノさんが目指すのは日本一のコーチ
前編 選手時代の自分の“正しさ”が全ての選手に当てはまるわけではない
後編 選手として日本一を経験したから今度はコーチで日本一になりたい
文 松原貴実
写真 安井麻実