俺か、俺以外か
ある時期が来ると毎年のように持ち上がる「あいつ、移籍するってよ」のトークテーマ欄に譲次の名前が挙げられても、話半分くらいにしか聞いていなかった。
実際そういった噂話の的中率なんて半々くらいのもので、話題作りのために捏造か誇張されるものも多いように思う。
それに個人的には能動的な変化が人間的にもバスケット選手的にも良い影響をもたらすと感じているので、「ほっといてやれよ」な感想しか出てこない。
だから大阪に移籍したと知っても「へー」であり「実家近いな」以上の反応がなかなかできずにいた。
だが今回取材するにあたって大学の同窓であった一人に想いを馳せてみれば、自分とは違った多くの曲がり角を折れてきた事実に思い当たる。
この世に生まれてから今まで、ほとんど同じ量の時間を生きてきた竹内譲次は今なにを思い、どのような価値観を抱いているのだろうか。
「今どこいんの? 名古屋いんの?」
「どうなん? コーヒー」
出だしから雲行きが怪しい。
お久しぶりのご挨拶もそこそこに、譲次選手からの逆取材が面白いように決まる。
最初に今回の趣旨を説明してくれたスピリッツのYさんからは、確かに「雑談のような感じで」との案内があったが、それにしたって自由が過ぎると思う。
あくまでも君は取材対象なのであり、今の僕はメディア側の人間なのだ。
これもプロスポーツ選手としての立派なお仕事なので、関係性くらいは把握しておくべきだろ。
記事捏造するぞ。
とはいえ、同期に近況報告するにはうってつけの機会でもある(仕事です)。
初取材なのに自分のこと喋りまくってるカオスな状況に怯えながらも、とりあえず今に至る経緯などをフガフガと話しつつ、なんとか無理やり本題へとこじつける。
石崎 子供2人もいるもんなー、大変そう。
竹内 2人もって。そんな多くないやろ、2人やったら。
石崎 子育てとかは苦にならない人?
竹内 それも心の余裕ってやっぱりあるやん? 仕事面でうまくいかないことなんて多々ある中で、完全に切り替えられるかっていうとそういう切り替えは正直上手な方じゃないから、なんかちょっと自分がバスケットの面でうまく行ってないときとかに100%そっちに切り替えられてるかっていったら、できてないよね、正直な話。
石崎 へー、じゃあなんか、試合とか練習でうまく行かなかったらちょっと怒っちゃったりとかすんの?
竹内 なんかの記事で読んだのが、子供に対しては怒れるか、叱れるか。で、まあ今のでいうと怒っちゃってるやん。叱れてないときはやっぱあるよね。それも人間力が弱いなあとは思うけどね、自分で。
石崎 いやー、そんなもんじゃないの? 100%切り替えれる人間なんかいないんじゃない?
竹内 まあまあ、でも理想はそうやん。100%は無理にしても100に近づけられる。でもじゃあ自分を後々振り返ってみて、「あぁ、あんとき、やっぱあかんかったなあ」みたいなのはやっぱあるし。