常に選手の身体と向き合い“1番いい正解”を探し出す(前編)より続く
数字はわかりやすい。だが、自分の目で見ることも大事
千葉ジェッツは今シーズンから選手のコンディションを管理するトラッキングシステム『KINEXON(キネクソン)』を導入した。NBAの22チームをはじめ世界のトップクラブが導入していると言われるこのシステムは、選手が身に付けるデバイスからショートスプリント、ジャンプなど100種類以上の運動データが取得可能で、そこから選手の競技パフォーマンスや疲労度までモニタリングすることができる。年間を通して選手のコンディションが測れることはパフォーマンスの向上はもとよりケガの防止にも役立つとあって、「ありがたいですね」と、多田さん。今シーズンは『選手の数字』を見るのが楽しみだそうだ。
「選手を評価する上で数字というのは1番わかりやすいんですね。その数字を知るために以前は体力テストを行っていました。でも、僕、体力テストってあまり好きじゃないんですよ。(体力テストの)前日にがっつりウェイトをやった選手がいれば、フレッシュな選手もいるわけで、そこには当然コンディションの差が出ます。定期的に実施できるならまだしも、Bリーグの過密スケジュールではシーズン中の定期実施は現実的ではありません。そんな中、年間を通して選手のさまざまなデータが取得できるKINEXONは示された数字をより客観的に見ることができます。選手の評価軸になりやすいですし、コーチにもフィードバックしやすい。プラス要素は大きいですね。ただし、自分の目で選手の動きを見るのは大事。そこは忘れてはいけないと思っています」
自分の目で見て、そこから “気づき” 得ることは少なくない。たとえば選手の身体の動きに普段と違ったものを感じることもあるし、思わぬウィークポイントが浮かび上がることもある。むろんその逆で、トレーニングによって改善された動きに「よし、よし」とうなずくこともあるだろう。では、選手の “天性の能力” を目の当たりにして、「おおっ」と唸ってしまうようなことはあるだろうか。
「ありますね。今まで見てきた中で、まずすごいと思ったのは並里成(琉球ゴールデンキングス)。自分の身体に対する感覚が鋭いですし、1つのエクササイズで出る身体への影響を言語化できるので『もう少しこういうことはできない?』と、自分から提案してきます。で、得た答えを実際バスケットに落とし込む。その能力はめちゃめちゃ高いと思います。もう一人はやっぱり富樫勇樹(千葉ジェッツ)でしょうか。彼は股関節の使い方が飛び抜けて上手い。だから初速のスピードがすごいし、転ぶことも少ない。これは並里にも言えますが、 “ストップ” の動作が図抜けているんです。富樫はスピードばかり注目されがちですが、実は1番すごいのは “止まれる” ってことなんですね。それに関してはもう天性なのかなあと思っています」
全ての選手が並里や富樫になれるわけではないが、少なくともトレーニングによって “止まる力” を向上させることはできる。「そのために僕自身も学び続けないと」と多田さんは言う。