「原のケガの原因は動きの中で上手く止まれていないことなのか、だとすれば足首の可動域に問題があるのか、それとも激しいコンタクトによってかかった負荷に耐え切れなかったのか。原因を探るためにはその選手の身体を知らなければなりません。ちょっと専門的な話になりますが、たとえばスクワットという動作をしたとします。そのときハムストリングス(太ももの裏にある3つの筋肉の総称)が硬いとお尻を落とすより先に骨盤がくるっと落ちて背中が丸まってしまうんですね。バスケットというスポーツは股関節にしっかり力を入れてお尻を落として動く動作が大事です。でも、ハムストリングスが硬いためにこの動作がすごく下手な選手がいる。それがケガを誘発する原因になることも少なくないので、その場合はハムストリングを柔らかくするトレーニングが必要になります。つまりケガの原因となるものは選手の身体の中にあるわけで、それを見つけていくことが第1歩。最適な改善策を見つけることが2歩になりますが、ここでやっかいなのは(改善策の)正解となるものがすごくたくさんあるということです。もちろん不正解もありますが、正解の数はそれよりずっと多い。その中から最もいい正解を抽出していくのが僕の役目です。大変ですねと言われれば確かに大変(笑)。でも、一方で選手といっしょに正解を見つけていくのは楽しいことでもあるんですよ」
話を原の足首のケガに戻すと、手術後3ヶ月のリハビリ期間を要した彼はその間に見違えるような “大きな身体” を手に入れてコートに戻ってきた。注目されたのはケガの原因を見極め、再発しない身体をつくるとともに「それ以外の部分でもより良いパフォーマンスができる身体作りを目指す」という多田さんのトレーニングだ。大学までシューター一筋でやってきた原がプロとして生きていくためには新たな武器が必要となる。本人や大野(篤史)ヘッドコーチを交えた話し合いでも早い段階から「もう少し体を大きくしたい」という声が上がっており、多田さんはそのためのトレーニングをリハビリと並行して行うことにした。結果、誕生したのが見事にアップグレードした原の身体である。
「原の場合はオフの間にできなかったフィジカル面の強化を戦線離脱した間に取り組もうというところからスタートしました。当然コートに復帰してからもトレーニングは続き、計画としてはだいたい3年を目標にしてやってきました。お互い3年先までいっしょにやれるという保証はなかったんですけど、身体づくりは短期間でバァーンとできるものではない。じっくり時間をかけて継続できたことはよかったなあと思います」