天皇杯は2次ラウンドで早々に敗退し、レギュラーシーズンは東地区2位。リスクを冒しながらも、果敢に挑んでチームをレベルアップさせ、最後にしっかりと開花させた。「トライ&エラーをしながらソリューション(解決)を見つけるところに、分析を通じてもっと早く貢献できていれば、レギュラーシーズンと天皇杯の優勝への力にもなれたのではないかと感じました。そこは自分の力不足だったなと思います」と反省点を挙げる木村氏だったが、アナリストにとっては大変なシーズンでもあった。
「いろんなことにトライしていた分、データがバラついてしまってどれを扱えば良いか、どのデータを突き詰めれば勝てるのかが、なかなか見つけられないシーズンでした。自分自身もそこで悩むことはありましたが、最後には勝つためのデータを発見し、それをもとに優勝に向かって貢献できたことに手応えを感じています」
コーチの意見からデータを構造化することもあれば、選手とディスカッションをしてデータを構造化することもある。富樫勇樹や原修太と同い年の28歳の木村氏は、「これはどういう感じでプレーしていたんですか?」「後半はどんなプレーが効果的だと思いますか?」など質問形式で語りかける。「映像を見た選手がどうやって感覚から身体化していくのか」に興味を持ち、データとなりうる情報収集に余念がない。大野篤史ヘッドコーチからは、「言葉で伝えられなければ意味はない。数値や映像を見せるだけが仕事じゃないよね」と就任当時から言われてきたことを常に心がけている。
「数値が全て正解ではないということです。先ほどの図のように数値が表すことは、選手が持つ感覚からすればほんの一部分でしかありません。つまり、数値自体が誤りでなくても、その数値で説明することは不可能だと思っています。そこは、かなり意識しています」
目指すは“オンリーワンなアナリスト”
Bリーグにいるビデオアナリストのほとんどが20代と若い。バスケの本場アメリカを見ても、コーチ志望の若いスタッフにとっての登龍門というイメージがある。トップレベルの選手であれば、すぐさまアシスタントコーチやスキルコーチへの道が拓かれるが、その経歴がない場合は「アナリストがコーチになるための一つのルート」と木村氏がいう現状もある。しかし木村氏の場合、目指すべき未来はコーチではない。
「実際にこの仕事をしてみて、まだまだ深掘りできる部分は多くあります。また、他競技の活躍を見ても、この分野では世界と戦えると思っています。日本一になったからこそ、次はアジアでの勝利に貢献できるアナリストになることが大きな目標です。そのためには日本らしさ、千葉ジェッツらしさ、自分らしさを追求したオンリーワンなアナリストを目指していきたいです」とその道を切り拓いている。認知水準フレームワークの図で示した資料の最下層にある「深層領域の部分は、まだ未知な部分であり、私自身が分かっていないのが正直なところです」と発展途上の業界でもある。「選手のメンタルなど心理学的なことや内科学的なことによって、運動感覚が影響することが本当はあると思っています。まだまだそこまで突き詰められていませんが…」と言うように、アナリストの仕事は伸びしろも多い。
アメリカではビデオコーディネーターと呼ばれ、千葉の前任もその名を使っていた。しかし、木村氏が就任したとき、他競技を含めて日本でこの地位を確立してきた先人たちへのリスペクトを込め「アナリスト」と名乗り、誇りを持って邁進している。
文 泉誠一
写真 B.LEAGUE