現場をサポートする一方で、彼らの評価を下すのもまた竹田の仕事である。それがよい評価であれば誰にでも伝えやすいが、たとえば戦力外通告など、非情の決断をしなければいけないときもある。GMとしては苦しい場面だし、竹田自身も「これほど伝えにくいものはない」とわかっている。
だからこそ、すでに選手たちには「評価基準」を伝えてある。
「これまでの横浜はそこまで明確な指標がなかったのですが、スタッツで目標になるような数値を、しかも選手それぞれが現実的に達成できそうなところに目標の数値を置いて、その選手の特長も生かせるような項目を選んで示しました」
もちろん数字だけでは表れない評価もある。他チームから打診が来るような選手であれば、評価を上げなければいけないところも出てくるだろう。逆に数字を残せていても、チームの考えと異なる考えを持つようであれば、継続的な話し合いが必要になってくる。
「まだ100%はできていませんが、こちらがしっかり基準を持っておくように、そうして選手も、契約を決めるボクたちもなるべくスッキリした形で契約更改の時期を迎えられるようにしたいなと思っています」
1シーズンの結果だけではない。GMともなれば中長期的な展望も描く必要もある。神奈川県は47都道府県のなかで競技者数が最も多い。その神奈川県で最大の都市でクラブを立ち上げた以上、ユース育成もプロチームの責任だと自認している。それは今までもクラブとして力を入れてきたところで、これからも若い選手を育てていき、彼らにB.LEAGUEで活躍してもらいたいと考えている。
「詳細は言えませんが、ユースの選手がトップチームに絡んできてもらえるような環境も作りたいと考えています。また選手だけでなく、ユースとトップチームのコーチ陣が交流していきながら、そこも “グラデーション” で、いい選手はどんどん上に上がっていけるような体制を、クラブとして作っていこうと取り組んでいるところです」
その先駆けとして、U18に所属する熊谷ジェイコブス晶がトップチームの練習にも参加している。
現役を引退してわずか3ヶ月。できないことの多さに居心地の悪さも募るが、GMとしての視界は今のところ良好といっていい。吹く風も、微風かもしれないが、順風ではある。もちろんどこかで嵐に遭うこともあるだろうし、凪に遭うこともあるだろう。でも、そんなときこそ、幾多の苦しい場面を飄々と切り抜けてきた竹田の真骨頂が発揮されるはずだ。
「一人ひとりが力を発揮できるような環境を作ることがGMの仕事だと思っています。そこを目標にしていますが、でもそれってすごく抽象的な目標なので、評価をしづらいところもあると思うんです。だから選手たちが『お前、ビーコルで変わったな』とか、『今シーズンすごく変わったよね』と周りの人から言われるような、それくらいのチームになれたらいいなと考えています」
力は入れているはずなのに、力みを感じさせない竹田謙は、GMになってもなお、そのスタイルを貫いている。
横浜ビー・コルセアーズ 竹田謙ゼネラルマネージャー
新たな海へと漕ぎ出したハマの新GM
前編 居心地の悪さを乗り越える楽しみ
後編 2つの軸足を巧みに使い分けて
文 三上太
写真 B.LEAGUE