「あいつのリバウンドは強い」がチームを助ける
サンロッカーズ渋谷は現在、チームのルールとして「全員がリバウンドに飛び込もう」と決めている。その結果がオフェンスリバウンドでリーグ1位という成績に表れている。だが渡辺はそうしたルールができる前から伊佐ヘッドコーチに「リバウンドに行っていいっすよね?」と聞いていたという。伊佐ヘッドコーチもそれを許可し、晴れて渡辺のマインドセットは解放されていく。それもまた伊佐ヘッドコーチが彼のリバウンド力を買っている証拠といえよう。
秋田の中山が言うように、プロバスケット選手としてけっして身長が高いわけでもないし、跳躍力に優れているわけでもない。それでも取れるのには、行くことに加えて、もうひとつコツがある。
「たとえば、ビッグマンがペイントの右下あたりで1対1をしているとしたら、逆サイド側に移動することはしています。攻めている方とは逆側からあえてリバウンドに飛び込むようにしています。そこは意識しているかもしれないですね」
バスケット経験者であればよく聞く「リバウンドはシュートを打った逆側に落ちることが多い」。一般的なセオリーを遵守しながら、渡辺は落ちる場所を予測している。そうすると取れることもある。取れないこともある。
「最近はリバウンドもスカウティングされているので、ボックスアウトされたり、リバウンドを警戒されて、年々取れなくなっているところはありますね」
それでも渡辺のリバウンドを警戒してくれれば、少なくとも1人のディフェンスを引きつけることはできる。するとチームメイトのリバウンドに飛び込むスペースが広がる。だから渡辺も軸足を変えるつもりはない。ガードとしてのゲームコントロールや3ポイントシュートにも磨きをかけたいと思っているが、自身のプレーの軸足はあくまでも「ディフェンスとリバウンド」にある。
チームスタイルが渡辺の魅力をより引き立てる
これまでも「なんでそんなにリバウンドが取れるの?」と聞かれてきた。自分自身ではそれほどリバウンドを取っている感覚はないから、「わからない」としか答えられなかった。とにかくチームメイトのシュートに合わせて、リバウンドに行き、シュートの落ちる場所を予測する。それだけだ。
チームメイトのシューティングを眺めながら、「これはオーバー」、「これは手前に落ちる」などの予測はしているが、それだって100%予測どおりになるわけではない。絶対ではないとわかっていながらも、予測をやめないし、リバウンドも取りに行く。
サンロッカーズ渋谷がルールにしている「リバウンドは全員で取りに行く」というスタイルは諸刃の剣のようにも思える。特にオフェンスリバウンドは、5人全員で取りに行ったら、取れる可能性は増えるかもしれないが、セーフティがいなくなる。取れなければ一発で速攻を食らってしまう。むろんやられることもあるが、たとえ取れなくても、すぐにディフェンスを始めればいい。フルコートディフェンスをベースに置くサンロッカーズ渋谷である。リバウンドが取れなくても、フロントコートですぐにピックアップし、そのままディフェンスを始められる。つまりサンロッカーズ渋谷は、リバウンドを軸足に置くガードの渡辺にとってもマッチしやすいチームというわけである。
とにかく行く。愚直に行く。行っても取れるかどうかはわからないが、行かなければ100%取れない。だから行く。行かなければリバウンドは始まらない。渡辺竜之佑はそう考えている。
文 三上太
写真 B.LEAGUE