環境が変わったことで気づけたこと
山下は東芝から福岡に移籍したとき、バスケットをやる環境が180度変わった経験をしている。練習会場が毎回違っていて、しかも遠い。教えられた体育館には30分、1時間かけて自分の車で向かうのだが、到着すると区切られた隣のコートでママさんバレーのチームが練習していたり、お年寄りのグループがバドミントンに興じたりしていた。「ある意味新鮮でしたね(笑)。嫌だとは思わなかったし。今はむしろああいう経験をしたことは自分のプラスになったと思っています。それまでの自分だったら気づけなかったものにたくさん気づくことができました」。それをひと言でいうならば『バスケットがあたりまえにできるのはあたりまえじゃないんだぞ』ということだ。「僕は環境がすごく整った東芝からスタートしたから余計にそう思うのかもしれません。たとえば試合の会場設置1つ取っても大きなクラブは専門の業者さんが入るところもあると聞きますが、福岡や島根ではチームスタッフやボランティアさんが時間をかけて自分たちの手で設営してくれます。片づけるときも同じ。試合が終わって僕たちが帰っても夜遅くまで働いてくれる人たちがいるから試合ができる。大げさじゃなく、見ているとちょっとジーンとするんですよ。自分たちがここでバスケットの試合をできるのはあたりまえじゃないんだなあって」。それを若い選手たちに伝えていくこともベテランと言われる自分の役割の1つだと思う。「そうですね。あたりまえにバスケができることはあたりまえじゃないんだぞ、だから俺たちは感謝を忘れず全力でプレーしなくちゃいけないんだぞってね」
順風満帆でないからこそやりがいがある
3月24日現在、島根は19勝27敗で西地区5位という成績だ。残りのレギュラーシーズンをどう戦い、どんな結果を残せるかが来シーズンにつながる。「島根にはバスケット以外プロのスポーツチームはないんですよ。だからもっともっとスサノオマジックのことを知ってもらって自分たちの町のバスケチームを応援してもらえるようしたい。そうできるよう頑張りたいです」
まだまだ好不調の波が大きいチームをまとめ、舵を取っていくのは簡単なことではないだろう。山下自身それは否定しない。「簡単ではないことはわかっています。自分の力不足に悩むこともあるはずです」。だが、そんなときは「逆にみんなの力を借りて前に進んでいきたい」という。ベテランの自分が伝えられるものがあれば、若い選手たちから学ぶものもある。「チームってそういうものでしょう?大事なのはみんなが同じ方向を向くこと。ちょっと違う方向を見ちゃってる選手がいたら、そこは自分がおいおいと声かけて(笑)。残りのシーズンの1試合、1試合を全員で戦って、全員で成長していきたいなと思っています」
もちろん、あたりまえにバスケットができることへの感謝を忘れず。
島根スサノオマジック #5 山下泰弘
あたりまえにバスケできることはあたりまえじゃないんだよ
前編 https://bbspirits.com/bleague/b21033101/
後編 https://bbspirits.com/bleague/b21040101/
文 松原貴実
写真 B.LEAGUE