「飛ばねぇ豚はただの豚だ」
そう言ったのはポルコ・ロッソである。実在の人物ではない。宮崎駿が描いた映画『紅の豚』の主人公である。
ならば問おう。
飛ばない桜井良太は何者だろうか ── 。
桜井は、この記事が掲載される数日前に38歳を迎えた。
若いころの桜井は自らボールをプッシュし、跳躍力を生かしたダンクシュートで会場を沸かせていた。高校3年生のときのウインターカップでは、能代工業を相手にダンクシュート3本を含む51得点をあげている。
愛知学泉大学を経て、トヨタ自動車アルバルク(現・アルバルク東京)に入団すると、2006年に日本でおこなわれた世界選手権(現・ワールドカップ)に出場。それをきっかけに彼はポイントガードにも挑戦している。当時は194センチのポイントガードなんてほとんどいない時代である。日本が世界を目指すうえで欠かせないと言われてきた大型ポイントガードに桜井が抜擢されたというわけである。
しかし今、桜井はパワーフォワードのポジションに就くこともある。外国籍選手のケガなどチーム事情によるものだが、彼はそれをすんなりと受け入れる。ベテランとして、チームのためになることであれば、そしてその役割を他ならぬ自分に託されるのであれば、異議を唱えるつもりもない。
周囲の期待からポイントガードとシューティングガードの併用が可能な「コンボガード」に仕向けられた。それが今では重ねた年齢と、彼自身のケガもあってスモールフォワードへ。ときにパワーフォワードまで。あまりにも多くを要求されすぎてはいないか。
しかし桜井は平然と言ってのける。
「僕は幸せかなって思っています。B.LEAGUEを見渡しても1番から4番までやらせてもらえる選手ってほとんどいないと思うので、単純に僕は幸せだなと」
さすがに2メートルを超す外国籍選手を相手にセンターまではできないが、パワーフォワードのポジションであれば、戦術でうまく適応させることもできる。桜井にはそれだけの才能、身体能力もあるというわけだ。
「僕に金丸(晃輔・シーホース三河)くらいのシュート力があれば、ポジションを変えるのは嫌だと言えるかもしれません。ポイントガードとしての圧倒的なボールキープ力、ゲームコントロール力があればそう言えるかもしれません。でも僕はそういうプレーヤーではないので。B.LEAGUEは本当に化け物のような、特殊な選手たちばかりなんです。『なんでそんなにシュートが入るの?』、『なんでそんなことができるの?』っていうような選手がいるなかで自分の仕事を見つけていかないと生き残れない世界だと思うんです。こだわりがないとも言えるかもしれません。でも僕はバスケットをしていくなかで必要なスキルかなとも思うんですよね。ヘッドコーチだって嫌がらせで、パワーフォワードとして出しているわけでもないでしょう? 戦略・戦術で必要だからこのポジションでやってほしいと言われれば、僕も『はい、やります』と」