断っておくが、決して投げやりに答えているわけではない。おそらく長谷川にとってこのテンションは通常運転。彼の中には「ちょっと気の利いたことを言ってみよう」などという考えはないのだろう。多少素っ気なくても自分は自分。余計な粉飾をするつもりはない。しかし、そんな長谷川だからこそ重みがあり、胸に響いた答えがあった。「マッチアップしてやっかいだなと感じる選手は?」と尋ねたときのことだ。長谷川から返ってきたのは、「最近はやっかいだと思う選手はいなくなりました」のひと言。ごく当然のように言った後、こう続ける。「リーグには上手い選手、力のある選手はいっぱいいますけど(マッチアップして)だれが苦手とか嫌だとかいうのはもうなくなりましたね。もちろん試合前にはビデオを見て相手の特徴とか調子とかの確認はします。でも、試合が始まればやることは1つ。相手がどんなスコアラーでもキーマンでも自分の何かが変わるわけではありません」
では “自分の中の変わらない何か” とはなんなのだろう。
「簡単に言うならば “基本” ですね。自分の役割の基本は相手にボールを持たせないこと、それに尽きます。そのために試行錯誤する時期もありましたが、結局1周回って基本に戻ったというか。なんだかんだ言っても基本が1番大事だということに気づいたというか。そこをブレずにやっていけば相手がだれであろうと関係ないんです。ディフェンスは相手じゃなくて、まず自分なんですね」
聞いた言葉をゆっくり咀嚼してみる。目の前の長谷川技と川崎が誇る鬼のディフェンダーがようやくピタリと重なった。
地味な仕事をコツコツやっていくだけ
今シーズンの川崎は相次ぐ外国籍選手のケガもあり、前半戦こそ苦戦したが、徐々に本来のバスケットを取り戻し3月3日現在27勝14敗で東地区3位に付ける。僅差で涙を飲んだ天皇杯から1年、今年のファイナルラウンド(3月12日~13日)は目前に迫り、その後のリーグ戦ではチャンピオンシップを見据えた熾烈な戦いが続きそうだ。だが、長谷川に気負いはない。「チームの状態は悪くありません。自分としては持ち味であるディフェンスをこのままの調子で頑張っていくだけ。それにプラスしてオフェンスでも4、5点取って貢献できればなあというのはありますけど、まあ基本はディフェンスなので、これまで通り自分らしく淡々と頑張っていきたいですね」
その言葉を聞きながら、そういえば…と思い出したのは前述したNBL優勝の際に聞いた長谷川のひと言だった。ようやくケガという長いトンネルを抜け、復帰したコートでつかんだ栄冠。ディフェンス力を称えられた彼は少し恥ずかしそうにこう答えた。
「自分は地味な仕事をコツコツとやっているだけです。地味でいいんです。でも、その地味なプレーに少しだけ注目してくれる人がいたら、それはそれでちょっとうれしい」
あれから5年。今も自分の仕事をコツコツと続ける長谷川の姿勢に変わりはない。変わらないからこその進化、変わらないからこその強さ。相手チームのファンから否応なしに嫌われる存在になるのは容易いことではないはずだ。「間違いなくうちのベストディフェンダーです」と胸を張った佐藤ヘッドコーチの声がもう一度聞こえたような気がした。
川崎ブレイブサンダース #33 長谷川技
進化する『川崎の最強ディフェンダー』
前編 ディフェンスはチームの生命線
後編 NBLラストシーズンに見せた真骨頂
文 松原貴実
写真 B.LEAGUE