新戦力のデション・トーマスと小酒部泰暉が進化させるA東京のオフェンス力
「我々はディフェンスのチーム」とパヴィチェビッチヘッドコーチは断言する。ディフェンス力で2度のチャンピオンに輝き、そのスタイルこそが強さの裏付けにもなっていた。過去2シーズンは70点を切っていたが、今シーズンの平均失点は77.4点であり、現在リーグ7番目。逆にオフェンスは好調であり、爆発的な得点力で上位を占める富山グラウジーズ(88.9点)や千葉ジェッツ(88.2点)、シーホース三河(83.8点)に次ぐ、平均83点で4位に位置する。A東京らしくない戦いに違和感を覚えつつも、進化したと捉えることもできる。パヴィチェヴィッチヘッドコーチは「我々はチャンピオンチームであり、過去のシーズンもしっかりとオフェンスを遂行できる力があった。今シーズン、得点が伸びているのはチームとして悪いことではない」と現状を話しはじめた。
前節の富山戦では、114-87とA東京らしくないハイスコアゲームで勝利したことに驚かされる。41試合で終わった昨シーズン、80点を挙げた試合は18試合あった。42試合を終えた今シーズンは、29試合に増えている。初優勝を挙げた2017-18シーズンは26試合、2連覇を果たした翌シーズンは30試合と60試合中半分程度だったが、今シーズンはすでに7割近い。「ただし、気になる点として…」とパヴィチェヴィッチヘッドコーチはさらに言葉を続けた。
「我々はディフェンスのチームであり、過去3年間のような相手を抑えられていない部分に課題がある。今日の試合もそうだが、もっともっと安定感あるディフェンスをしていかなければならない。確かに80点以上を獲る試合が増えているが、オフェンスよりもディフェンスで失点が増えていることの方が気がかりである」
18点を挙げ、オフェンスでも好調な安藤に、同じくオフェンシブになっているチーム事情について質問をした。
「確かに、僕も得点が伸びているなと正直思っているところです。なかなか得点が増えていながら、失点はこれまで通りというのは難しい。でも、ディフェンスのハードさに関しては悪くなっている印象はない。トーマスが1on1で攻めるシチュエーションもあるが、それもサプライズではなく、僕たちのチームのオフェンスの一部になってきている。他の選手が1on1するのとは違ったシステムというか、毎回コンスタントに決めてくれるし、このチームの流れとしてこれまでとは少し変わってきているのかなというのは感じています」
昨シーズンまでとの大きな違いは、6試合連続20点オーバーの活躍を見せるトーマスと、5試合連続二桁得点をマークする小酒部泰暉の存在だ。新戦力たちがオフェンスから新たな勢いを与えている。その一方で、まだまだチームディフェンスの理解度が浸透していなかったことで、A東京にしてはハイスコアゲームが続いてきたとも考えられる。昨シーズンの平均失点である67.7点を下回り、好調なオフェンスで80点を超えて勝利したのは、1月27日の宇都宮ブレックス戦(83-59)だった。
今週末(3月12日)の天皇杯ファイナルラウンド準決勝では、現在ディフェンスNo.1(失点71.4点)の宇都宮とふたたび対戦する。A東京は調子の良いオフェンスで凌駕するのか、はたまた宇都宮に引っ張られるように持ち前のディフェンスが復活するか? ケガにより田中大貴とカークが戦線離脱し、一発勝負のトーナメントだからこそ、本来のディフェンシブなスタイルが求められるはずだ。
文・写真 泉誠一