開始5分に花束を(前編)より続く
練習が厳しいことで知られるルカ・パヴィチェヴィッチだが、練習の前後は気軽に話せるコーチでもある。菊地はそのパヴィチェヴィッチとのコミュニケーションのなかで、彼が “試合の入り” をすごく大事にしていることに気づいた。どんな試合であれ、試合の入り方は常に一定でありたい。アルバルクのバスケットを入りから遂行することで、残りの時間もアルバルク基準のインテンシティで進めたい。そのことに気がついたのである。
「ベテランとしてはそこに波があってはいけないと思っているし、ヘッドコーチが期待している一定以上のプレーを出だしでしなければいけないと思っています。特に僕はボールをたくさん触るタイプではないし、逆に相手チームのボールを多く触る選手や、得点をたくさん取りたい選手につくことが多いわけです。僕のなかでは、そういった選手の “試合開始5分” というのがすごく大事だと思っていて、そこで苦しめられれば、その試合のほとんどを苦しめられると思っているんです。相手チームの日本人エースを開始5分でできるだけ苦しませてほしいという役割があって、僕を出してくれているのかなと考えています」
たとえ5分であっても自分の役割を徹しさえすれば、チームを勝利に導ける。ベテランとは単なる使い勝手のよさではなく、チームにとって “燃費のよい” 選手ということになりはしないか。
「たとえ僕が序盤にファウルを2つ、3つやろうが、相手のエースがボールを触れずにイライラしたら、普通に考えたら、ファウルを3つした時点で僕自身はマイナスなんですけど、チームとしてはプラスになれるのかなって思えるんです」
そこには後から出てくる須田侑太郎やザック・バランスキー、小酒部泰暉(現在はリハビリ中)が、その後の仕事をきっちりとこなすという信頼関係が不可欠である。彼らがタフじゃないプレーをしようものなら、菊地もその考え方を改めるかもしれない。しかし今のアルバルク東京にはそうした選手がひとりもいない。それがまた、菊地がベテランとしての妙味を見せられる要因になっている。
スタメン起用はパヴィチェヴィッチからの信頼の証だと自負している菊地は、簡単にその座を明け渡すつもりもない。一方で12月に3回、須田にスタメンの座を譲ったときのようにベンチスタートになっても、彼のなかで何かが変わるわけでもない。
「試合に出られないからチームに貢献できないかといったら、そうは思っていないので。ここから、たとえば小酒部が復帰して、僕が試合に出られなくなったとしても、自分がチームに貢献できるポジションが必ずあると思っているんです。そこに移行して、チームに貢献するだけですね」