10年という節目に「東北はこれから頑張らなければいけない」
しかし10年という歳月も、2021年3月11日を過ぎれば、あっという間に過去になる。政府からも10年が区切りだと言われている。だからこそ「ここから東北は頑張らなければいけないんです」と志村は言う。「ナイナーズ・フープ」の一環で、仙台は今、新しいプロジェクト「ナイナーズ・イエロー・プロジェクト」も始めている。
「実は事務所の前に黄色い花が植えてあるんです。それは来年4月に黄色いチューリップが咲くようにと、子どもたちが植えたんです。街の周りをチームカラーであるイエローに染めて、選手に力を与えようという活動をやっているんです」
それだけではない。東北楽天ゴールデンイーグルスが県内の小学生にキャップを配っていることを参考に、ナイナーズは子どもたちにバスケットボールの寄贈もおこなっている。そのボールにはスポンサー企業の名前とともに、ナイナーズのチームロゴも入っている。「初めて触ったボールがナイナーズのボールだった」という思いを持って、スポーツに打ち込んでほしいという願いを込めているのだ。
世情は日々刻々、様変わりをしている。2020年はコロナ禍にも見舞われた。震災を体験した人たちがそれを忘れることはないが、一方で10年という歳月のなかで震災を知らない多くの子どもたちが生まれてきている。震災に絡めておこなってきたさまざまなイベントも、今後は規模が縮小していくかもしれない。二度とあのような震災は起こってほしくないが、万が一同じようなことが起きたときにすばやく対応できるよう、ナイナーズとしてはこれからも啓蒙活動は続けると志村は言う。
「今までの10年に感謝しつつ、次の10年……その先の未来に対しての活動も今年からしていこうと。今までどおりのことをしていたら厳しい世の中になってきたので、僕らとしては新しいことをする必要がありました。そういった意味では、今年のコロナ禍は苦しいところもあるんですけど、新しいことをやらなきゃという意味でチャンスだったと思っています」
10年後、2020年をコロナのせいにして「あのときダメだったから、今も規模が小さいままだ」と言われないようにしたい。Bリーグからは「今年は我慢のシーズンです」と言われ、前年の決算報告を見ても、成長の鈍化は明らかである。今年はさらに厳しくなるかもしれない。
「それでも僕らはしっかり前を向いて、違う方向にシフトしていくことにもチャレンジしていきます」
転んでもただでは起きない。社長になった今も志村は現役時代さながらの熱を持って、仙台の地を盛り上げようとしている。あれから10年も、このさき10年も、ナイナーズは仙台とともにある──。
仙台89ERS 代表 志村雄彦
あれから10年も、このさき10年も
前編 あのとき仙台は暗かった
後編 10年の感謝を伝える「NINERS HOOP」
文 三上太
写真 三上太、仙台89RS、B.LEAGUE