あれから10年も、このさき10年も(前編)あのとき仙台は暗かった より続く
10年の感謝を伝える「NINERS HOOP」
東日本大震災から10年が経とうとしている。仙台89ERSの代表取締役社長、志村雄彦はユニフォームをスーツに着替えて、「ナイナーズが復興のなかで地域に生かされてきたことに感謝をしよう」と、「NINERS HOOP(ナイナーズ・フープ)」という活動を始めた。
「フープっていうのは『輪』っていう意味もありますし、英語でバスケットリングのことも『フープ』って言うんです。その2つの意味をかけて、地域と未来をバスケットでつないでいこうという地域貢献活動を始めています」
Bリーグの規定では通常、ホームコート開催がB1で80%以上、B2でも60%以上を占めなければいけない。しかし今シーズンは長引く新型コロナウィルスの影響もあってか、その規定が緩和されている。
むろんナイナーズにとっても新型コロナウィルスの影響は小さくない。しかし志村たちはそれをポジティブな思考に変換して、節目の年に新しい動きを加えたのである。
「我々は『ナイナーズ・フープ・ツアー』と呼んでいるんですけど、宮城県内を回って、改めて感謝を伝えることと、当時の恩を返そうと考えているんです。今シーズンの開幕戦は被災した仙台空港の近くにある名取市でやりました。そこは僕自身が震災の3~4日後くらいに行った場所で、すごく小さな体育館なんですけど、そこから『ナイナーズ・フープ』をスタートさせたんです」
名取市での開幕戦は連勝。観客の反応も上々だった。名取市もまたこれまで普通におこなわれていたイベントが、ことごとく中止になっていた。コンサートなどの文化活動も、地元のみんなで盛り上がる夏祭りも、子どもたちが日頃の成果を見せるお披露目会さえもできない。学生のバスケットシーンでもインターハイが中止となり、中学生たちも全国大会につながる大会が中止に追い込まれた。ナイナーズはそうした子どもたちのためにクリニックをおこなったり、観光需要が厳しかった夏には県内のいくつかの地域に出向いて、その土地の特産物などをどんどん紹介していった。選手を3つのグループに分け、6つの地域の『どんぶり対決』もおこなった。それは『ナイナーズ・フープ・ツアー』に向けた種蒔きであると同時に、閉塞感の漂うそれぞれの地域に少しでも心地よい風をもたらしたいという思いでもあった。
「もちろんフルスペックの試合ができるわけではないんです。でもナイナーズという常に熱を持ったチームを、いろんなことで気持ち的に下がっている人々に見せることで、何かしらの感謝を伝えられたらと考えているんです」
若い頃は考えもしなかったアイデアをみんなで共有し、小学5年生のときに見たNBAの雰囲気を仙台で実現するため、志村はスタッフや選手たちとともに奔走している。