特別指定選手としての入団ではあったが、踏み込んだA東京の練習は何もかもが学生時代と違っていた。
「まず迫力にやられました。練習の迫力です。ピリピリとした緊張感のある練習。最初は練習に入ることができなくて、見ていることが多かったけど、周りで見ているだけでも伝わってくる緊張感が学生のときとは全然違うんです。どう伝えたらいいかわからないけど、一から全部が違う。少しも気が抜けない。コーチも、先輩方も試合と同じような緊張感を持ちながら練習をやっていたんです」
そうした迫力を日々感じながら、2020-21シーズンの継続契約を交わした約2週間後、笹倉の仙台89ERSへの期限付き移籍が発表される。
「(A東京の)ルカ(・パヴィチェヴィッチヘッドコーチ)と話したときに、僕にはプレーの経験が少ないと言われたんです。このままA東京に残っても、小島元基さんがケガから復帰してきたら、プレータイムがどうなるかわからない。もちろん自分自身でプレータイムを勝ち取って出られるかもしれないけど、まずはしっかり経験を積んでほしいということも言われたんですね。そんなときに仙台への期限付き移籍という選択肢をいただいて、僕も試合に出て経験したいと考えたんです。もちろんA東京では試合のような質の高い練習をできていましたけど、本当の意味で試合経験を積むというのとはまた違う。試合のなかでの経験を積みたかったので、仙台への期限付き移籍を決断しました」
仙台は現在、B2に属する。B1からB2への移籍だったが、笹倉はそこにまったくのこだわりがなかった。とにかく試合経験を積みたい。自分を成長させたい。その思いが大きかった。むしろ昨シーズン、B1に昇格できなかった仙台だからこそ、今シーズンの「B2優勝、B1昇格」という明確な目標もあり、質の高いバスケットを経験できるはずだ。笹倉はそう考えたのである。
2020-21シーズンが始まり、仙台は13勝9敗でB2東地区5位につけている(2020年12月14日現在)。笹倉もまた、これまで全試合スタメン出場を果たすなど、求めていた経験を積み上げている。
しかしことはそう簡単ではない。本来はポイントガードとして移籍してきた笹倉が、仙台ではチーム事情から複数のポジションをこなさなければならない。何をしていいのかわからないこともまだまだ多い。経験豊富な片岡大晴や寒竹隼人らがアドバイスをしてくれるおかげで、少しずつ自分自身のパフォーマンスが発揮できるようになってきたが、それに甘んじたくもない。
「言い方が合っているかどうかわからないですけど、今は好きにやらせてもらっているというか、やりやすい環境を作ってもらっている感覚です。僕自身としてはもっともっとチームに貢献しなきゃっていう思いはあるんですけど、それがプレッシャーになったり、うまくいかない試合があったりして、まだまだチームに貢献できていません。ただ僕としてはそれを若いからという言い訳にしたくないですし、これから自分がトップで戦っていくための課題だと思って、目を背けないでやっていかなければいけないなって思っています」