「恥ずかしながらBリーグの試合を始めて生で見たのは特別指定選手としてのオファーを受けて、とどろきアリーナに行ったときです。お客さんの数も盛り上がり方も想像していたのとは全然違っていました。本当にびっくりしました」
びっくりしたのは初めて日本代表の試合を生で見たときも同じ。「ワールドカップ予選のオーストラリア戦のチケットを自分でチケットを買って見に行きました。けど、正直興味があったのは日本代表チームというより高校時代に戦った八村塁や筑波大の先輩である馬場雄大さん、それと自分はNBAが好きなのでオーストラリアチームにいるNBA選手のプレーでした」。が、増田はここでも衝撃を受ける。どうせ大差でオーストラリアが勝つんだろうという予想を覆して日本がつかんだ渾身の勝利。千葉ポートアリーナに響いたうねるような歓声と割れんばかりの拍手。「自分も興奮していたと思います。ああバスケットはいいな、おもしろいな、すごく楽しいなって」
視野が広がり、そこで繰り広げられるバスケットを知ることで自分の目指す世界もまた広がっていく。それが青木のことばにあった「川崎に入って180度変わった増田」につながる一歩だったのかもしれない。
ルーキーとして迎えた今シーズン、佐藤賢次ヘッドコーチからは「ミスを恐れずいろんなプレーにどんどんチャレンジしていけ」と言われている。「高校、大学とずっとインサイドをやってきたので、身体の接触の部分では他のペリメーターの人より強い自信があります。そこが自分のストロングポイントだと思うので、ディフェンスで身体を張ったり、オフェンスではミスマッチならどんどんポストアップしてそこからズレを作ることを心がけています」と、本人も意欲的だ。そんな増田を「賢いバスケットをする選手」と評するのは先輩の辻直人。「ディフェンスでも相手の動きをよく見て上手くかけひきができてるなあと思います」。また、キャプテンの篠山竜青は「コートの上では遠慮することなくリングにガンガンアタックするし、常に得点に絡みに行く気持ちの強さをすごく感じます。そこは彼の武器となるものなので、今のメンタルのままさらに成長していってほしいですね」と、エールを送る。先輩たちの目に映る増田はなかなか頼もしいルーキーらしい。
ただし、オフコートの増田については「あいさつもちゃんとしているし人としてもしっかりしているけど、普段なにを考えているのか、ようわからん。謎の部分がありますね(笑)」(辻)。「川崎は年上の選手が多いこともあってか、良くも悪くも〝素顔のマッスー〞はまだまだ出し切れていない感じ。これからが楽しみなような怖いような(笑)」(篠山)と、増田が持つ不思議な…いや、独特の感性には気がついているようだ。先輩たちのそんな声を知ってか知らずか、当の増田は自分の課題についてこう語る。
「課題はもうめちゃくちゃたくさんありますよ。ペリメーターをやるからにはもっとドリブルをつけなきゃだめだし、シュート力ももっともっと上げていかなきゃならない。ピック&ロールの使い方だったり、ディフェンスの読みだったり、ポジショニングだったり、もう挙げていったらきりがないです。ほんとに嫌んなるほど課題だらけです」
「嫌んなるほど」と言いながら、なぜだろう。これからの自分を見据える増田の顔はなんだかやけに楽しそうだ。
川崎ブレイブサンダース #11 増田啓介
これまでの僕と、これからの増田啓介
前編 https://bbspirits.com/bleague/b20121501/
後編 https://bbspirits.com/bleague/b20121601/
文 松原貴実
写真 B.LEAGUE
画像 バスケットボールスピリッツ