同じ3番(SF)のポジションには信州で5年目を迎える三ツ井利也やアジア枠で加入したヤン・ジェミンがいるが「三ツ井はディフェンスがすごくいい選手。若いけど自分の考えをよく話すところなんかいいなあと思っています。ジェミンの魅力は高さ(201cm)とアグレッシブさ。プロ1年目で学ぶことはたくさんあると思いますが、まだ21歳だし伸びしろだらけですね。2人ともエネルギッシュなプレーをする選手なので、一緒にやっていて刺激を受けます」と評価したあと、「32歳の自分もまだまだ負けてらんねぇなあって思いますね」と、真顔で付け加えた。第7節を終えた11月8日時点で信州の順位は3勝9敗で西地区8位。だか、3つの勝ち星の内2つは東地区の強豪川崎ブレイブサンダース(10月24日、72-66)、西地区優勝を狙う三河シーホース(11月9日、87-73)から奪ったものだ。「強いチームというのは、やっぱり我慢強い。負けていても、離されても、あるいは猛追されても、自分たちのペースになるまで我慢強く戦えるチームだと思うんです。たとえ30分いいバスケをしてもだめな時間が10分あれば勝てません。いかに40分間集中してやれるかに尽きると思います。川崎や三河に勝てたのはそれができたということ。これからさらにメンタルの力がつけばもっと勝ち星も増えるはずです。このチームはそういう可能性を秘めていると思うんですよ」
話を聞きながら、おやっ?と思う。さっきの『負けらんねぇなあ』に続き、チームの可能性を語る口調の熱さはこれまでの小野に抱いていた“闘志を内に秘めながらもどこか淡々としたイメージ”とは少し違う。本人は「自分ではよくわかりません。小野龍猛は小野龍猛で変わりませんよ」と笑うが、その一方で「信州に来たことでおのずと自分の立ち位置が変わった」ことは自覚している。求められるもの、担うもの、自分にしかできないもの。微妙に変化したイメージは、本人が先述した「やりがいを持ってプレーできる」ことを表しているのではないだろうか。「外国籍選手も全員合流しましたから、いよいよこれからが本当の勝負になります。掲げた目標はもちろん優勝ですが、仮にそれが叶わなくとも勝つために必要なことをそれぞれが自分の頭で考え、一戦一戦大切に戦っていきたい。最後に1つでも多く勝っていたいですね。そのためにも自分にできることは全力でやりますよ。勝利に貢献できる存在になることが個人としての目標です」
東京生まれの東京育ち。信州に引っ越してきたころは都会のビル群がなつかしくて「やっぱりね、ちょっと寂しかったです(笑)」。だが、信州には豊かな自然がある。「空気もおいしいし、食べ物もおいしいし、人は温かいし、子どもを育てるにも本当にいい環境です。あとそば好きに僕にとってうれしいのはどこでもおいしいそばが食べられること。なんてったって信州のそばは最高ですから」
生粋の都会っ子ゆえに今でも時々都会の喧騒が恋しくなるときもあるが、それでも1日、1日信州が好きになっていく自分を感じる。「きっと住めば住むほど信州の良さがわかってくると思います。バスケットはもちろんオフコートでもこれから先がすごく楽しみです」。
32歳にして選んだ信州という新天地。新たなユニフォームでコートに立つ小野龍猛の心には、今、一点の曇りもない。
文 松原貴実
写真 B.LEAGUE