雑草という名前の草はない。
どの草にも名前はあり、いずれも自分の好きな場所で懸命に生きている──。
7分。
28分30秒。
前者は森川正明が4シーズン在籍したシーホース三河での平均出場時間である。
後者は今シーズン、移籍した横浜ビー・コルセアーズでの森川の平均出場時間である。
「きついっす(笑)」
初対面のZOOM取材ということもあって、それまで硬かった表情が「体力的には大丈夫ですか?」の質問で少し緩んだ。
「(取材直近の)アルバルク東京戦、千葉ジェッツ戦は相手のディフェンスがすごくハードだったので、それに対応するのが精いっぱいでした。そこで体力を削られたと思うし、これを60試合と考えたら……相当すごいことだなと」
これまでとはちょっと異なる“世界”は想像以上にタフなものだった。
もちろんそれは自らが望んだことでもある。
「僕は今年29歳になるんですけど、同世代の選手を見るとそれぞれのチームで主力選手になっていて、日本代表でも活躍する選手が多いんです。そのなかで僕は控えで出ることが多くて、このままの立場でいいのかなって、ずっと考えていました。もちろん金丸(晃輔)さんや川村(卓也)さんらを押しのけて、自分がスタメンになるっていうモチベーションもありました。ただ自分の年齢を考えたときに、このままじゃいけない、もっと自分を必要としてくれるチームがあるんじゃないかと思って、チャレンジする気持ちで移籍を決めたんです」
森川は移籍の理由をそう語る。
森川と同じ年齢の選手を一部挙げてみよう。
田中大貴(アルバルク東京)
宇都直輝(富山グラウジーズ)
張本天傑(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)
永吉佑也(京都ハンナリーズ)
1つ上には比江島慎(宇都宮ブレックス)がいて、1つ下には安藤誓哉(アルバルク東京)がいる。
彼らの活躍に刺激を受け、森川が次の一歩を踏み出したのもわからなくはない。
横浜を新天地に選び、シーズンが開幕すると全試合でスタメン出場。冒頭の平均出場時間だけでなく、1試合平均の得点も4シーズンの平均3.8点から10.0点に伸ばしてきている(2020年10月26日現在)。
いわゆる「エリート街道」を歩んできた選手ではない。
小中学生のころはベンチスタート。それも試合の勝敗が決してから出場を許される、チームの最後列。試合に絡んだという記憶はない。
中学3年の夏以降に身長が一気に伸びて、福井商業に推薦入学を許されると、1年目からベンチ入りを果たす。
しかし福井県には北陸高校がいる。中学時代の同級生も進学し、3年生のときにウインターカップではベスト4に入っている。言わずと知れた名門校である。
そんな強豪校を初めて目の前にした森川は「ホンモノの北陸だ……」と気圧された。対戦するわけでもないのに、同じコートに立てることさえも信じられないという気持ちだったと振り返る。
2年生になってチームの主力になると、徐々に自信を得られるようになってきた。
同じ年には国体の福井県選抜Bチームに選出され、Aチームである北陸と交わることにもなった。もちろんすぐに結果が出るほど甘いものではなかったが、その強化合宿で「俺もやれるんじゃないか。北陸と同じくらいのレベルを目指せるんじゃないか」という手応えをつかんだ。
ここから森川の上昇志向にスイッチが入る。
結果として学生時代は大きな成果を上げられなかったが、今、森川は日本最高峰のB1にいる。
そこにすべてがある。
「僕はいわゆるエリートではなかったので、そういう選手をいかに倒そうか、上位のチームをいかに倒そうかと、高校時代からずっと考えてやってきました。その気持ちは今も変わらずに持っています。高校、大学でハングリーな気持ちを培われたから、今の僕があるんじゃないかと思います」