滋賀のショーン・デニスヘッドコーチもまた世界を知る名将の1人だ。細かい部分をおろそかにしないところはパヴィチェヴィッチヘッドコーチとの共通項だが、「タイプは似ていてもバスケットのスタイルは違います」と、齋藤は言う。「デニスコーチの戦術から、僕はプレーの柔軟性を学びました。今思ってもスタイルが違う2人のトップコーチから学べたことはすごくラッキーだったと思います。自分の引き出しが確実に増えた気がします」。その結果と言えるのが冒頭で述べた“大きな飛躍”だろう。コロナ禍でリーグが中止となったことに無念さを感じつつも、チームを上昇気流に乗せた手ごたえは十分だったに違いない。そして今シーズン、さらなるステップアップを目指して齋藤が決断したのは名古屋ダイヤモンドドルフィンズへの移籍だった。
「オフの間にいくつかオファーをいただきましたが、その中で名古屋Dの梶山さん(信吾ヘッドコーチ)が『うちの持ち味であるトランジションバスケットを進化させるためにも君のようなポイントガードが欲しい』と言ってくださったことに心が動きました。名古屋Dには力のあるウィングの選手やシューターが揃っています。そこに自分が入ることでどうなるかとイメージしたとき、とても良い絵を描くことができたんですね。梶山さんが遂行するトランジションバスケットは自分に合ったバスケットであり、ここでなら持てる力を発揮して、もう一段、階段を上れるような気がしました」
名古屋Dには顔見知りの選手も多い。滋賀からともに移籍した狩野祐介やジェフ・エアーズの存在も心強く、初日の練習からすんなりチームに溶け込めたという。笹山貴哉、小林遥太という2人の先輩ポイントガードとは「いい意味で練習から競い合っていますし、そういう環境があることはありがたいと思っています」。もちろん、競う以上負けたくはない。が、齋藤が言う『負けたくない』は、「スタートから出るとかベンチから出るとか、そういうことではなく、勝負所でチームを任されるガードになること」を指す。持ち前のスピード、パスセンス。得意のピック&ロールで味方の得点を演出したかと思えば、自らも積極的に得点に絡む。齋藤の武器は多岐にわたるが、その中でも自分の一番のストロングポイントは?と尋ねると、一瞬考えたのち「ゲームをクリエイトできることですね」と答えた。
安藤周人、張本天傑、中東泰斗…と名古屋Dには走力と得点力を兼ね備えた選手が揃うが、あと一歩の粘り、劣勢からの立て直しなどの課題を残したまま昨シーズンは17勝24敗で西地区5位に沈んだ。だが、チームが持つ潜在能力は上位チームと比べても遜色はないはずだ。「そのとおりだと思います。その潜在能力をいかに引き出せるかが自分に課せられた役割の1つなのは間違いありません」。今は個人的なスタッツは気にしていない。齋藤にとって重要なのはチームの勝利。チームを勝たせるガードになることだ。「ゲームの状況判断はまだまだ身に付けないといけないところですが、チームとともに自分も成長していきたいと思っています」。今シーズン、勝敗を分ける場面でコートに立ち、チームを勝利に導く齋藤の頼もしい姿に期待したい。
文 松原貴実
写真 B.LEAGUE
画像 バスケットボールスピリッツ