Bリーグ2020-21シーズンが10月2日に開幕した。今シーズン、名古屋ダイヤモンドドルフィンズに移籍した齋藤拓実はホームで迎えた3日の開幕戦(対レバンガ北海道)で先発出場すると、約21分のプレータイムを得てチームハイの14得点をマーク。5本のアシストで味方の得点も演出し勝利(89-54)の立役者となった。4歳上の兄の背中を追ってバスケットを始めたのは保育園のとき。「記憶にあるのは5歳ぐらいですが、3歳か4歳ぐらいにはもうボールに触っていたと思います」と言う齋藤には「自分はバスケットと一緒に育ってきた」という思いがある。特別指定選手の期間を含めると4年目のBリーグを迎えた今、「今シーズンの最大の目標はチームを勝たせることです」と、きっぱり言い切った。
昨シーズン大きく飛躍した選手は誰か?と聞かれたら、真っ先に齋藤拓実の名前を挙げるBリーグファンは多いのではなかろうか。アルバルク東京からレンタル移籍した滋賀レイクスターズでスターターとして全41試合に出場。11.6から25.6へと倍増したプレータイムに比例するように平均得点は3.6から13.0へ、平均アシストは2.0から5.4へと大幅な伸びを見せた。「移籍した当初は噛み合わない部分もありましたが、ジェフ・エアーズとクレイグ・ブラッキンズが入ってきたことによって自分が活かしてもらえるようになった気がします」と、本人の言葉は控え目だが、齋藤が活きるということは、すなわち齋藤が周りを活かせるということ。初のベスト4に進出した1月の天皇杯もリーグトップクラスの勝率を記録したリーグ後半戦も、滋賀の躍進の陰に齋藤の“牽引力”があったのは間違いないだろう。
長年の夢だった『バスケットのプロ選手』への一歩を踏み出したのは明治大4年次(2017年)のとき。アルバルク東京から届いた特別指定選手のオファーを受けてのことだった。A東京のルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチは妥協を許さない厳しい指揮官として知られる。しかし、齋藤にとってそれは想定内であり、むしろその厳しい指導を望んでいた節がある。
「確かにルカに厳しく鍛えられたいという気持ちはありましたね。僕が在学していたときの明治大には諸事情から指揮官がなかなか定まらない時期があり、練習も試合も選手で話し合ってやっていました。ルカコーチと出会ったのはそんなときです。大学4年で選ばれたユニバーシアード日本代表の合宿でした。その合宿で3週間ほどみっちり指導してもらいましたが、そのすべてに衝撃を受けました。厳しくて、細かいと言われるルカのバスケットはその1つひとつが全部理にかなっているんですね。ああこんなバスケットもあるのかと、ある意味自分を変えるきっかけになったと思います」
A東京に入り、そのパヴィチェヴィッチヘッドコーチの下で学んだピック&ロール、相手の動きを徹底して読むディフェンス、細部まで計算されたプレーの数々…「アルバルクでは本当に多くのことを学ばせてもらいました」と言うように、過ごした2シーズンは齋藤の中にいくつもの財産を残した。だが、その一方でプレータイムを求める気持ちが募っていったのも事実だ。滋賀へのレンタル移籍を決めた齋藤の胸の内にあったのは、「コートの上で自分の力を証明したい」という強い思いだった。