どのクラブにとっても、これまでとは状況が一変することも想定しなければならない。B3開幕は2021年1月と先延ばしになったが、このピンチを吉田は前向きに捉えている。「半年以上の準備時間があるということは、この業界ではなかなかないことです。せっかくできた時間を生かして、いろんなことを試しながらクラブの強みにしていきたいです」。幸いスポンサー収入は昨シーズン同等となる見込みであり、地元企業とともに岡山を盛り上げるアイディアを練っていた。
入替戦なき新シーズンだが、昇格できる可能性がゼロではない
元月刊バスケットボールの編集者としてBリーグ全体を見てきた吉田にとって、B3は「実業団チームとの温度差もあります。プロクラブもB2ライセンスが取得できているかどうかで熱量の差もあり、3段階に分かれている感じ」とその特性を表した。ファーストシーズンは5位に終わり、B2昇格の目標は叶わなかった。発表されたレギュレーションでは、2020-21シーズンのB2・B3入替戦がない。だが、トライフープ岡山の選手たちは「プロキャリアも浅く、優勝の喜びも知らないし、昇格降格の危機感も経験したことがありません。昨シーズンはコロナの影響により途中で終了し、シーズンを全うするつらさや達成感などを存分に味わえないまま終わってしまいました。言ってしまえば、まだプロというものを学び続けている段階にいます」と比留木は答え、ステップアップがモチベーションとなる。入替戦こそないが、昇格できる可能性がゼロではない。財政面などB2ライセンスをクリアできないクラブがあれば、チャンスがめぐってくる。そのためにも「クラブとして財政面の充実化を図るとともに、B3首位で終えること」を新シーズンの目標に掲げた。
昨シーズンは途中からヘッドコーチとなったことでプレーする機会を失った比留木だが、今シーズンはどうするのか。取材を行った7月末時点では、まだヘッドコーチは決まっていない。「昨シーズンと同じ方向性やバスケットの軸というものを大事にしたい。僕自身も勝てなかったことに歯がゆさが残っています。目指しているスタンダードに対し、バスケットの質が届かなかったのはスタッフ陣の責任であり、選手たちのパフォーマンスを引き出してあげること、土台を作って戦わせてあげることができなかったです」と反省点を挙げ、ヘッドコーチとして挽回する場を求めているようだ。「昨シーズンで終わりにしようかなって思ったけど…」と、選手としてシーズンを全うできなかったためにユニフォームを脱ぐ踏ん切りはつかない。
引退の引導を渡してあげようとしたところ、「選手はやりたい。あと1年くらいはやらせて欲しい」と食い下がってきた。さて、比留木がコートを駆け回るラストシーズンはB3か、はたまたB2か。それともトップの舞台に返り咲くのか──様々な立場でトライフープ岡山を引き上げながら、自らの引き際を模索する挑戦が続いていく。
プロバスケットボールクラブをつくろう!略して「バスつく!」
ホーム開幕戦で2千人を集めたトライフープ岡山の可能性
part1「『やらんわけにはいかんやろ』故郷で現役復帰した大森勇」
part2「トップリーグを経験した濃いキャラが増加中の岡山県」
part3「比留木謙司の変わらぬ信念」
文 泉誠一
写真提供 トライフープ岡山
画像 バスケットボールスピリッツ編集部