part2「トップリーグを経験した濃いキャラが増加中の岡山県」より続く
比留木謙司の変わらぬ信念
昨シーズンのB3ホーム開幕戦は2019年10月5日に2040人、翌6日は2381人を集めた。現役Bリーガーとして他チームに籍を置きながら、オフの日には岡山を訪れながらプロクラブ発足へ向けて尽力してきたのが比留木謙司である。ゼロから築き上げ、最高のスタートを切った開幕戦の心境について聞けば、「それが意外と感慨深さは全くなかったです」というのが率直な感想だった。「それよりも自分がやらなければいけないことが常に目の前にあり、どの道に歩んでいかなければいけないのかということの方が気になっていました」とは、いかにも比留木らしい。
「10代の頃から日本のスポーツ文化に対して嫌悪感を抱き、バスケに限らずスポーツに対する理解や文化の成熟度がものすごく低い国だと感じていました」
プロ選手になった23歳のときから、どうすればファンを増やすことができるのか、チームを勝たせるために何をすべきか、とコート内外のことを常に考えていた。2016-17シーズンのBリーグ・アウォードではファンによるSNS投票において、ユーモア賞に輝いたのもその証と言える。現役選手ながら、クラブ運営とチーム強化の両方に気を配ってきた比留木にとって、「やっと自分のやりたい部分に着手しはじめているのかなぁ」というGM業はまさに天職と言える。
ヘッドコーチ就任は想定外だったようだが、「やるからには全力でやるし、選手たちを高みに連れて行けるようなコーチであり、GMでありたい。常に上へと引き上げていくクラブになれば良い」と先を見据えているからこそ、開幕戦は単なる通過点でしかない。20歳前後はバスケ修行のためにニューヨークへ渡り、サンディエゴシティカレッジで学び、バスケだけではなく価値を見出すスポーツの認知度の差を身を持って経験してきた。
「日本でどうすればアメリカと同じようになるのかをずっと考えています。今、岡山にいて、新規クラブでゼロから認めてもらう工程を踏めています。多くの裁量を与えてもらっている部分もある今は、すごくピッタリなのかなと思います」
35歳となった今、役職ある立場で物事を動かすことができている。だが、その信念や行動は10年以上前から何も変わらない。
「岡山のみんながバスケに関わる場所を作ってしまおう」
比留木にとって、3×3の選手として誘われたのが岡山の原点である。2015年、TRYHOOP OKAYAMA.EXEの一員として、3×3.EXE PREMIERや様々な大会に出場してきた。「市長に表敬訪問をしたり、テレビに取り上げられたりされる3×3チームは、まちがいなく僕らが一番最初だったと勝手に自負しています」と3×3を通じて、岡山県民にバスケや比留木謙司という存在を周知していく活動でもあった。中島聡代表とともに行政や地元企業に足繁く通い、「岡山のみんながバスケに関わる場所を作ってしまおう」と挑戦の幅を広げ、Bリーグ参入に向かって弾みをつける。
3×3では多くの人がにぎわう商業施設にバスケコートを設営し、行き交う人々に見られたことでその名前が浸透していった。しかし、「3×3とBリーグで戦うチームが結びついていないのが現状です」とスタッフの吉田大貴は、B3の告知へ向けたチラシ配りをしていて気づかされる。今オフ中は両チームが同じトライフープ岡山であることを3×3のイベントを通じて、さらなる認知度向上を目指していた。しかし、比留木もプレーする予定だった3×3.EXE PREMIERがコロナ禍により中止となってしまった。