過去にはJリーグのサテライトリーグがあり、Bリーグでも宇都宮ブレックスや千葉ジェッツなどが育成チームを保有していた。しかし、選手を抱えるコストが増えるため、いずれも長続きはしなかった。情熱や意欲だけでは継続できない。トライフープ岡山の取り組みについて大森は、「パートナー企業様のご協力があるからこそ、サテライトは成り立っています」と説明する。「企業様は労働力を求め、我々としては人件費等を捻出しなければなりません。その橋渡しとなるような関係を中島や比留木が考え、成立させてくれました。選手たちはパートナー企業様の下で働かせていただきながら、練習や試合の日は融通を利かせていただいています」と生活が保証されているからこそ、選手たちも本気になれる。
働きながらプロの道を模索する選手たちに対し、「練習やトレーニングする場所、リカバリーできる施設、そして何よりコーチングスタッフを揃えた育成・強化環境を整えています。そこから先は選手自身次第です」という比留木は、GMとして原石を磨いている。
プロ契約を勝ち獲るための登龍門
B3の新シーズン開幕は、年明け2021年1月16日とまだまだ先である。その前に、9月末(予定)からはじまる地域リーグにサテライトが参戦する。昨年は岡山代表として天皇杯に出場し、61-95で敗れはしたが2次ラウンドで富山グラウジーズと対戦する経験ができた。今年はさらなる上を目指し、トップチームと合同練習を行いながら強化を進めている。「プロの現場に触れながらいろいろな刺激を受け、トライフープからキャリアの現在地を気づいてもらう場所」と比留木は考えている。プロの門を叩く環境を提供したが、それを開けられるかどうかは選手次第。どんな結果であっても現実を受け入れ、次に進むための登龍門としての役割を担っている。
新シーズンへ向け、特別指定選手を含めて13人程度のロスター枠を比留木は想定する。
「サテライトの選手たちにとっては狭き門であり、かなり厳しい戦いになります。トップチームの選手たちにも、昨シーズンは一人もカットすることはなかったですが、プロフェッショナルなパフォーマンスや態度でなければ、今年はそれもあると伝えています。プロ契約であっても、試合に出す確約はない。そこは危機感を持って望んでもらいたいです。トップチームはB2、B1とステップアップを目指し、まだプロのユニフォームを着たことがないサテライトの選手たちは、まずはその舞台に立ってもらいたいという思いを強く持っています。ただし、プロになった瞬間からビジネスとなり、がんばっているからOKではなくなるわけです。それぞれが武器を持ち、良きタイミングでアピールしなければいけないことを学んで欲しいです」
Bリーグの各クラブはU15ユースチームともに、近い将来にはU18ユースチームの保有も必須条件となる。U18とトップチームの世代をサテライトがつなぎ、「ゆくゆくはU23くらいまでに制限を設けたい」と比留木は考え、サッカーをはじめとしたヨーロッパのクラブのような構造を目指す。JBAは二重の競技者登録を認めていないため、現時点では自由に行き来できない制度の問題はある。だが、プロクラブがサテライトを持ち、地域リーグや下位カテゴリーを育成の場として求めることはチームの強化となり、戦力の底上げや充実化を図ることができる。選手たちにとってもチャンスが広がっていく。トライフープ岡山の試みが、Bリーグにとって今後のスタンダードになっていけば良い。
part3「比留木謙司の変わらぬ信念」へ続く
文 泉誠一
写真提供 トライフープ岡山
画像 バスケットボールスピリッツ編集部