半数近くがはじめてプロのコートに立つ経験の浅い選手ばかりである。5シーズンのプロ経験がある大森は、「若い選手たちは本当に手探りの状態で開幕戦を迎えていました。例えば、いつ着替えて、いつコートに入れるのかなど試合に対する準備さえ全く分からない選手ばかりでした」とシーズン序盤を回顧する。これまでの経験を惜しみなく伝え、積極的にチームメイトとコミュニケーションを取ってきたことで成長が見られた。「本当にたくましくなりました。最初は慣れていない彼らより、自分が出るときの方が良い流れを作ることもできましたが、経験を積んだ終盤は若い彼らの勢いが勝利に貢献してくれました」という大森はチームの伸びしろを実感しており、2年目が楽しみだ。
目標は「岡山=バスケ」「岡山の経済を動かす存在に」
2020年2月23日の最終戦、東京八王子ビー・トレインズを迎えたジップアリーナ岡山に2,634人を集め、最高記録を塗り替えた。昨シーズンのB3において、2千人を超える観客を集めたのはトライフープ岡山と岩手ビッグブルズしかない。「正直、僕自身もバスケ界には長くはいますけど、試合に関する運営に関しては素人。分からないことばかりでした」と話すのは、ホームゲーム運営を担当するスタッフの吉田大貴だ。東京エクセレンスの広報を経て、月刊バスケットボールで活躍された経歴の持ち主である。地元のプロバスケ立ち上げに尽力したいと、2年前に吉田は故郷に戻っていた。中島代表と比留木とともに、資金繰りから体制作りまで慣れない業務を無我夢中で駆け抜けてきた。
「最初のホームゲームでいきなり2千人以上集客できましたが、ハンドリング面では分からないことばかりでトラブルも正直ありました。あの2日間はあまり記憶がないです。最終戦では、20試合行ってきたホームゲームの経験を生かすことができるようになりましたね。ただ、苦労の方が多かったシーズンでした」
吉田とひとつ年上の大森は、ともに西大寺高校のバスケ部出身。最高でも県大会ベスト8だったチームメイトと「一緒にプロで働けているのも奇跡に近い」と吉田が言えば、「高校当時からバスケ熱がすごかったのは僕ら二人くらい。出会うべくして出会った感じ」と大森にとっては必然だった。
バスケに熱い二人が、トライフープ岡山を通して地元を盛り上げる。「B1を目標にアリーナを毎試合満員にしたい。小学校からトップチームまでを一本につないで、岡山=バスケと言われるような地域にして盛り上げたい」と大森は目標を挙げた。吉田は故郷へ恩返しするためにも、バスケの域を超えた発想をする。
「岡山の経済を動かせるような存在にしたい。千葉(ジェッツ)や宇都宮(ブレックス)はバスケを超えた経済効果を出しています。岡山には企業も多く、山陰と四国を結ぶ交通のハブとしてもポテンシャルがある土地だと思っています。経済や子供たちの教育の面でもトライフープが貢献したいと個人的には思っています。岡山はここから歴史がはじまっていきます。大変なこともありますが、充実していることの方が多いかなぁ」
「走りながらバタバタでした」と続けた吉田の言葉どおり、前進し続けたことで多くのことに気づき、実りあるファーストシーズンとなった。
part2「トップリーグを経験した濃いキャラが増加中の岡山県」へ続く
文 泉誠一
写真提供 トライフープ岡山
画像 バスケットボールスピリッツ編集部