「迷路をさまよっていたころに、ある人に『適当とは、適したところに当たる。そういうことでも、あるんだよ』と言われたんです。それを聞いて『そうか!』と、合点しました。ずっと下位のチームを勝たせることをしてきて、プロで経験を重ね、次にまた昔のようなことをしたいと思うようになった。それなら僕の次の『適したところに当たる』場所は、B2なんだって」
プレーヤーとしての心に、再び火がついた。4月末にBリーグの自由交渉選手リストに公示されるとすぐに、興味を示したB1のクラブを含め、複数から声がかかった。それぞれとの交渉を経て、選んだのはB2の東京Z。
「東京Zを選んだ理由は、若い選手が多くて、これからのチームだと思ったから。それに昨季は、B2中地区の最下位でした。そういうチームを強くすることこそ、僕がやりたかったことだし、今はやるべきことだと思っています。東頭俊典ヘッドコーチと話をして、社長とは何度も話し合いを重ねて、上に行きたい気持ちが伝わりました。これまではクラブの現状を考慮して、B1にいた選手を獲りに行くことを控えていたそうですが、それを覆しても僕に来てほしいと言ってくれた。チーム力を上げて、上に行くための中心的存在になってほしいとも言ってもらえました。それも、僕がやりたかったことなんです」
そう語る男の目は、生気に満ちている。京都時代の9から17へと背番号を変え、濃紺のユニフォームに身を包んで迎える今季。自ら選んだ新天地で果たすべき役割を、こう話す。
「まずは、経験を伝えることじゃないかと思っています。プロになってからは、大阪エヴェッサ時代のビル・カートライトさん、桶谷大さん、そして京都での浜口炎さんと、これまでのHCから数多くのことを教わりました。東京Zの若い選手たちは、B1を経験した選手に興味を持つでしょうから、僕が経験したことを積極的に伝えていきたい。それに東頭HCと若い選手たちとの橋渡し役であったり、チームの潤滑油的な存在にならないといけないと思っています。チームを良くするためなら、汚れ役も引き受けるつもりです」
プレーヤーとしての身上は、ひとつひとつのプレーにこだわって、泥臭くプレーすること。表面的にはポイントガードとしてのゲームメイク、勝負どころでの得点力の高さがあげられるが、見逃してならないのはリバウンド奪取能力。体躯に優る外国籍選手が居並ぶゴール下に果敢に飛び込み、リングに弾かれたボールを奪いにかかる。
プレーの流れを読む能力に長けているのと同時に、そこに秘められているのは、チームのために身をなげうつ覚悟。178cm・73kgと、体格に恵まれているわけではない。全力プレーの代償として、ケガに悩まされたことも少なくない。それでも彼は、泥臭くプレーすることをいとわない。ベテランと呼ばれる年齢になった今もそのスタイルを崩さず、東京Zの若い選手たちに自らのプレーで伝えていくつもりだ。