正中を語る上でもう1人欠かせないのは石崎巧(琉球ゴールデンキングス)だろう。ライバルと言われた青学大と東海大の対決は正中、石崎のポイントガード対決でもあり、代表チームでいっしょになれば互いの意見をぶつけ合える気の置けない友人でもあった。その石崎に引退する正中へのコメントを聞かせてほしいと連絡を入れると、電話口でしばし考え「いろいろ思いがあるので、口で言うより文章にして送っていいですか」と、言われた。後日送られてきたのが下記の文だ。そのまま全文を掲載する。
正中岳城がいかに魅力的な存在かについては、今さら僕が改めて語るまでもありません。
それどころか、彼についてなにかを語ろうとすればするほど、既存の言葉があまりに陳腐なものに感じられて、正確に表現することができないのです。
初めて出会った大学のころから「ライバル関係」で、「互いに競い合ってきた」間柄であるという表現が間違っているわけではないのですが、決定的に足りていません。
与えてもらったものは数知れず、勝敗や優劣をすっかり放り出して、純粋にバスケットボールを楽しむことができる唯一の選手でした。
だからこそ、晩年の彼から伝わってきた『背負った荷物の重さ』には心が痛みました。
大きな責任、ケガとの闘い、プレイヤーとしての欲求。
想像を絶するような覚悟でチームを支え続けるその姿は、チームメイトに格別の安心感を与えるとともに、僕に不安と寂しさを感じさせました。
引退会見時の「やり切った」という言葉を聞いたときにはとても安心しましたが、来シーズン以降、A東京とのゲームだけに沸き上がってくる特別な高揚感は二度と味わうことはできないんだと思うと、残念でなりません。
現役を続けていく大きな理由の1つがなくなってしまったと、途方に暮れていますが今はとにかく、今後の彼の人生が充実したものになることを願ってやみません。
石崎巧
自分に語られたたくさんの言葉を正中はどんな思いで読むのだろうか。「最後の最後まで俺は仲間に恵まれていたなあ」と言いながら、泣き笑いする顔が見えるような気がする。
元アルバルク東京 正中岳城
今、思うのは「仲間に恵まれた13年だったなあ」ということ
part1「最後のウインターカップ予選で72得点をマーク」
part2「『努力できること』を武器に成長していった4年間」
part3「“引退”は次のステージに向かう切符」
part4「正中岳城への伝言」
文・写真 松原貴実
写真 B.LEAGUE
画像 バスケットボールスピリッツ編集部