山形で出場した2試合の映像を見る限り、動きやゲーム勘に多少のぎこちなさはあったものの、それでも1試合目は29分20秒の出場で10得点、2試合目も27分9秒の出場で8得点をあげている。及第点と言っていい。
しかし栗原にとっては、その2試合もさることながら、公式戦の直前におこなわれた仙台89ersとの合同練習、いわゆる練習試合に出られたことのほうが、感慨深さがあったと認める。自身のSNSでもそれをしっかりと記録している。
「公式戦ではなかったですけど、あのとき東地区の1位か2位だった仙台とゲームができたことは大きかったです。チーム内での攻防とは違う雰囲気もあるし、そのなかでプレータイムもそれなりにもらえて、点数もそれなりに取れて、チームプレーでも絡めたことが単純にうれしかったんです。そこでまだできるなっていう気持ちも芽生えてきたし、あの練習試合が僕にとっては1年以上かかって、やっと戻れた大きな舞台だったんです」
大きな一歩を踏み出したチームで、栗原は次の一歩も踏み出すことを決めた。
引退を覚悟したこともある。1度や2度ではない。しかし今回の度重なるケガを乗り越える日々のなかで、栗原は家族の支え、周囲の支えをこれまで以上に痛感し、山形のように自分をまだ必要としてくれるチームがあることに感謝の思いを抱くようになった。
「こういう経験はしたくないし、他の選手にもしてほしくない。でも逆にこういう経験をした選手は少ないと思うので、そういう意味ではいい経験ができたかな」
人知れず痛みと戦いながら、それでいて日本トップレベルのプレーを見せてくれていた栗原。その痛みが取れた今、どんなプレーを見せてくれるのか。むろん失われたコンディションや感覚、何よりも完全に足首を固定された左足をいかに使うか。右足とのバランス、体全体との調和など克服すべき課題も多い。しかし度重なるケガと、前例のない手術、リハビリを経て帰ってきた栗原は、以前の彼とは違う強さを手に入れた。
暗闇にあっても光明を見出そうと歩みを止めなかった。来シーズン、山形で浴びるスポットライトはこれまで以上に明るく、強く、そして優しく栗原貴宏を包み込むはずだ。
取材後、偶然見つけたYouTube動画がこれ(↓)。拙稿のタイトルはNHKで放映中の朝の連続テレビ小説から着想を得た。このドラマの主人公と同じく栗原もまた福島県出身。高校まで過ごした街の風景をバックに、山形でリスタートを図る栗原にエールを送りたい。
山形ワイヴァンズ 栗原貴宏
エールを背に!
part1「足首を固定したリーグ屈指のディフェンダー」
part2「生き方を貫くことで伝わる何かがある」
part3「必要とされるチームでプレーしたい!」
文 三上太
写真 B.LEAGUE