文字どおり、左の足関節、つまり足首の関節を固定する手術に踏み切ったのである。
人の動きを司る大きな関節は「(相対的に)動きやすい関節」と「(相対的に)動きにくい関節」が順番に並んでいる。下から足首の関節は動きやすく、ヒザの関節は動きにくい、股関節は動きやすく、腰椎は動きにくい……といったように。足首の関節は本来動きやすくできているのだが、栗原はその足首に複数のピンを埋め込むことで、動かないように固定したのである。
「(固定していない)右足は普通に動かせるんです。でも左足は足首を固定しているから動かすことはできません。足首の周りにある細かい関節を動かすことで、足首の動きを補うようにしているんです」
そう言って、スマホに収めた、足首にピンが入っていることを示すレントゲン写真を見せてくれた。さらにその場で(取材はオンラインでおこなわれたので、画面越しに)現状の足首の動きを見せながら、こう明かす。
「動きに制限はかかるんですけど、手術をする前、つまり痛みを抱えながらやっているときも自分で足首にグッと力を入れて、足首が動かないように固定しながら、プレーしていたんです。そのほうが痛みも出にくかったので。だから手術をしたからといって可動域が出ないとか、動きづらいという感覚はあまりありません。それ以上に手術をして痛みがなくなったことが僕にとって一番大きなことなんです」
東芝(現・川崎)や日本代表でも彼のプレーを見てきたが、そんな壮絶な裏側があったとは思いもしなかった。自らの力で足首が動かないように固定し、そのうえで彼の真骨頂ともいうべき、あのハードなディフェンスができていたのか。ここ一本での3ポイントシュートを決めることができていたのか。改めて頭が下がる思いだ。
今は痛みもない、と栗原は認める。
「コロナの影響でトレーニングを含めて家にいることが多いんですけど、子どもたちと公園に行く機会が増えました。そこで1時間以上歩くんですけど、昔は考えられなかったですね。公園を歩くなんて絶対にしたくなかったし、公園に行っても座っていたいという感じだったんです。それが今では1時間以上歩いても全然痛くない。歩きながら妻が『痛くないの?』って10分おきくらいに聞いてくるんですけど、『全然痛くない』って言えるんですよ。そこですごく実感しましたね、本当に痛くないんだって」
暗闇の出口に立った今の栗原の表情は清々しささえ感じる。しかしそこに至るまでの1年はけっして平坦なものではなかった。
part2「生き方を貫くことで伝わる何かがある」へ続く
【NBL】ディフェンダーの矜持と、その一歩先へ ~栗原貴宏~
https://bbspirits.com/bleague/20160609kuwabara/
文 三上太
写真 B.LEAGUE