引退後もつながる社会人としてのキャリア
2007年よりトヨタ自動車に入社し、そのバスケ部に迎えられた正中は、社会人としてのキャリアをスタートさせる。最初の頃はシーズン中も定期的に出社し、オフには社業に勤しむ年もあった。国内リーグの環境変化とともに、少しずつコートにいる時間の比重が増えていき、Bリーグ誕生とともにバスケが業務となった。引退を決断したことで、7月からトヨタ自動車に復職する。その心境は新入社員か、はたまた即戦力となるベテランのような感じかと問えば、「どちらでもない」という答えが返ってきた。
「今まで学んだことや経験を持って行きながら、セカンドだ、サードだというナンバリングするようなキャリアではございません。自分の中ではつながっている話なので、一人の人間としての再スタートであり、次なるチャレンジ業務にあたるということでしょうかね。新入社員とか、ベテランとかは全く関係ないと思います。学ぶことに対して積極的に、やるべき役割を果たしたいと思います。これまでのように──」
学生生活を終えて社会に出た以上は、引退しようが転職しようがそのキャリアはつながっている。プロ化したことでセカンドキャリアについて問題視されるが、以前セミナーで拝聴した北海道日本ハムファイターズの取り組みが腑に落ちた。簡単に言えば、2軍もあるプロ野球では選手たちにある程度の出場機会を与える。そこでチャンスをつかむために全力投球し、たとえ成果が出なくても社会人として成長させることで、引退後のキャリアも全うできる。この取り組みにより、セカンドキャリアの概念を払拭したという話は、正中の思想に相通じるものがある。
13年間、選手と社員の立場を両立させ、他の選手よりも倍の経験を積みながら成長を続けてきた正中の次なる活躍の場は、日本を代表する大企業・トヨタ自動車の渉外広報本部だ。東京オリンピック・パラリンピックのワールドワイドパートナーでもあり、バスケだけではなく日本のスポーツを牽引していくキャプテンの次なるステージが楽しみである。
文・写真 泉誠一
写真提供 アルバルク東京